2020年大統領選挙・民主党の指名候補争いは、予備選段階の開始4カ月前の現時点で早くも「佳境に入った」感がある。実際の予備選段階は2月3日にアイオワ州党員集会、11日にニューハンプシャー州予備選から始まる。この両州など予備選段階の最初に争われる州での結果が他州の動向にも大きな影響を与えることもあって、選挙運動の開始がどんどん早くなっている。実際の予備選段階開始の前の戦いを「影の予備選(シャドー・プライマリー)」という。
影の予備選で決め手となるのは支持率だ。ちなみに、支持率にあわせて各メディアは立候補者を特集する紙面の量や放映する時間を決めるため、支持率が高ければ、露出が多い。露出が多ければ、知名度が高くなり、献金も増えていく。献金が増えれば、テレビ広告や世論調査など選挙運動にかける費用もさらに増え、それが支持率増につながるという好循環が形成される。
支持率を上げるためには、できるだけ早めに選挙運動を開始する必要がある。影の予備選はどんどん前倒しになり1年以上に長期化する傾向がある。各州の予備選は一つも始まっていなくても、現在は実際には「すでに後半戦」に入っている。
19年9月末現在の現段階の各種世論調査について、支持率順でいえば、バイデン前副大統領が30%程度でトップ、これに続くウォーレン上院議員が20%台、サンダース上院議員が20%弱と続く。現段階ではこの3人の争いに絞られてきたといっても過言ではないかもしれない。このなかでウォーレン上院議員の支持の伸びが9月に入ってから目覚ましく、バイデン氏を支持率で上回る調査も複数でてきた。トランプ大統領がバイデン親子の不正解明をウクライナ政府に要請したとされる問題で、大統領だけでなく、バイデン側の不正も明らかになる可能性もあり、さらにウォーレンへの支持が高まるかもしれない。
このトップ3に続き、1ケタ台と数字的には離されているが、ハリス、ブッカー(いずれも上院議員)、オルーク前下院議員、ブーティジェッジ氏(インディアナ州サウスベンド市長)、ヤン氏(起業家)らが続いている。
民主党の指名候補争いは、上述の2月のアイオワ州党員集会、ニューハンプシャー州予備選から始まり、3月には南部諸州を中心とした14州の予備選が開かれるスーパーチューズデー(3日)を経て、最終的には7月13~16日の民主党全国党大会(ウィスコンシン州ミルウォーキー)で指名候補が決まる。共和党側も予備選があるが、現職のトランプ氏に対抗できるような有力候補は立候補していないため、トランプ氏が共和党の指名候補になるのは確実である。
それではトランプ氏と民主党の指名候補のどちらが20年11月3日の本選挙で勝つのか。現状ではまだまったく予見しにくい。現職のトランプ氏が有利というわけでは決してない。というのも、政治的分極化もあり、トランプ大統領への支持は大きく割れているためだ。共和党支持者のトランプ氏への支持率は85ポイント程度と極めて高いが、民主党支持者のなかでのトランプ支持はわずか数ポイントだ。両者の差は80ポイント程度ある。
それもあって、民主党がどの候補が党指名を獲得したとしても、そもそもの固定票がある。架空の「もし今日、大統領選挙があり、トランプ氏と戦ったら」という世論調査をみると、民主党立候補者のうち、支持率が高い3人(バイデン、サンダース、ウォーレン)のうち、トランプ氏以上の数字を記録する調査結果もある。現時点の世論調査はあてにはならないが、世論が分断していることもあり、民主党側にもトランプ氏にとってもどちらが勝ってもおかしくない。
ただ、民主党側をみると政策的な面での大きな懸念がある。各候補者が打ち出している政策がいまのところ、あまりにリベラル寄りであり、実現不可能に近いものが少なくない。
その代表的なものが、サンダース、ウォーレン両氏が主張する「メディケア・フォー・オール」である。これは連邦政府運営の医療保険を全国民に提供しようとする「保険の国有化」案にほかならない。高齢者を対象とした既存の公的医療保険制度であるメディケアを基礎にするとしても、すでに大多数の国民が民間保険を利用しているアメリカで実際に可能かどうかはかなり疑問である。たとえ導入したとしても、巨額の財源が必要となり、財政赤字が一気に膨らむ。また、保険会社の強制的廃止や保険を選択する権利などをめぐってすぐに訴訟が起こるのは必至だ。
一方で、医療保険の高騰は確かに深刻な問題であり、大きなリスクを払っても「メディケア・フォー・オール」のような国民皆保険を強制導入しておく方が、長期的なメリットは高いという声も民主党の左派を中心に存在するのも確かである。
国民の多くが納得できるような政策を打ち出せるかどうかも、民主党側にとっては今後の課題だろう。
【21世紀政策研究所】