経団連は1月29日、東京・大手町の経団連会館で、中西宏明会長、古賀信行審議員会議長、早川茂副会長、中村満義日本商工会議所特別顧問ら経済界幹部が出席し、アジア・大洋州地域ならびに国際機関に駐在する日本国大使との懇談会を開催した。中西会長の冒頭あいさつの後、6名の大使から現地情勢等について説明を聞いた。概要は次のとおり。
■ 鈴木哲 駐インド大使
モディ首相の公約である市民権法改正等に対する暴力的な反対運動は現在収束しているが、農村部の疲弊や授業料値上げ等への学生の不満もあり、今後の政治・治安情勢を注視する必要がある。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)については、内需の減速に伴い経済成長が停滞するなか、対中貿易赤字等インドの懸案の解消なくして参加できないとの立場をとる。厳しい状況だが、日本は参加呼びかけを継続したい。
■ 石井正文 駐インドネシア大使
第二期ジョコウィ政権は大統領選挙での対抗馬プラボウォ候補を政権内に取り込み安定した。人材育成、インフラ拡充、投資拡大、輸出拡大、格差是正等の優先事項に意欲的に取り組んでいる。経済成長に向けて今後3年が極めて重要であり、日本企業への期待は大きく、ビジネス環境改善要望は率直に伝えるとよい。最近はインドネシアとインドが接近し、両国の共同開発案件に日本も参入する可能性がある。
■ 梨田和也 駐タイ大使
5年ぶりの民政復帰も、18政党の連立政権や与野党拮抗のため迅速な意思決定が困難である。バーツ高により輸出が減少し、特に自動車産業は生産・輸出が2割減少した。観光収入へのPM2.5と新型コロナウイルスの影響も懸念される。2020年度(19年10月~20年9月)予算はいまだ成立せず景気刺激策は未実施である。EEC(東部経済回廊)の整備等を機に知識集約型産業への展開を目指しており、日本企業に大きな期待を示している。
■ 冨田浩司 駐韓国大使
日韓関係は現在小康状態にあり、両国は引き続き対話を通じた問題解決を目指している。旧朝鮮半島出身労働者問題は深刻な状況ながら、関係修復が困難になる前に韓国の現政権が主導し国内関係者間を整理・調整する必要がある。政治関係の悪化に伴う観光・食品等の分野での落ち込みの回復に向けて、経済界には交流を通じて日韓経済の相互補完関係を発信してほしい。
■ 梅田邦夫 駐ベトナム大使
共産党一党体制のもとで政治・治安状況は安定しているが、汚職の蔓延や非効率な行政に不満を持つ国民も存在する。危機感を抱く指導部は汚職摘発や行政改革を推進している。経済は好調である。インフラ整備や公共事業代金の支払い遅延等が課題だが、改善の兆しが見える。日本の労働力不足問題へのベトナムの役割が大きくなっているが、悪質な業者の介在が課題であり、さらなる取り締まりの強化が必要となっている。
■ 杉山晋輔 駐米国大使
トランプ大統領の最大の関心は自身の再選である。経済は潜在成長率並みの2%台を維持し、完全失業率も3.5%に収まり株価も好調である。大統領選挙は接戦州の結果に左右され、現状では予測が難しい。トランプ大統領が再選すれば中国への対抗措置を徹底するだろう。継続的な対米直接投資によって、日本企業が米国の社会・経済に根差した不可欠な存在となっていることもあり、日米関係はとても良好である。
【国際協力本部】