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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年5月14日 No.3452 米中関係の根本的見直しを求める米国の声 -ワシントン・リポート<75>

新型コロナウイルス感染症拡大における中国の責任や拡大後の対応によって、中国に対する不信感や憤りが広まっており、米国として中国との付き合い方を根本的に考え直す必要があるとの声が増えている。

■ シンクタンク専門家と一般世論

カリフォルニア大学バークレー校教授でAEI(American Enterprise Institute)客員研究員のジョン・ユー氏(G・W・ブッシュ政権で司法長官補代理)は、12月と1月には、中国政府がコロナウイルスの起源、急拡大、致死率などの情報を隠蔽し、その後も中国国内における感染者数、死亡者数を意図的に少なく報告していることを指摘。世界が被った損害に対して中国は国際法に則り賠償請求をされるべきであると主張している。

ブルッキングス研究所シニアフェローのシャディ・ハミド氏は、中国政府による情報の隠蔽は、自国と自国民だけでなく、世界100カ国以上を危険にさらしたと主張。この危機収束後、中国との関係が元に戻ることはあり得ず、中国政府が世界における責任ある役割を果たしてくれる望みは完全についえたと述べている。

一方、一般世論においても、共和・民主両党支持者の間に感染拡大の責任は中国政府にあり、中国政府は信用できず、米国政府は中国に対し強硬姿勢を保つべきという意見の一致がみられる。特に感染拡大の責任は中国政府にあるとするのは、共和党支持者の90%、民主党支持者の67%に上る。ピュー・リサーチ・センターの調査でも、中国に対して批判的な回答は2年前の47%から66%に増加している。

■ 連邦議会の動き

このような専門家や世論の動きを受けて、連邦議会においても対中態度は硬化の動きが広まっている。以前から対中タカ派で知られていたマルコ・ルビオ上院議員(共和党・フロリダ州)らは、中国政府のコロナウイルス初期対応への憤りを機に強硬政策の支持を広げようとしている。3月19日にルビオ上院議員が提出した医薬品サプライチェーンの中国への過度の依存に対応する法案には、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党・マサチューセッツ州)やティム・ケイン上院議員(民主党・バージニア州)もCo-sponsorとして名を連ねた。このほかにトム・コットン上院議員(共和党・アーカンソー州)とジョシュ・ホーリー上院議員(共和党・ミズーリ州)は、ウイルス感染情報の隠蔽行為を行った中国政府高官への制裁適用を提案した。コットン議員はさらに、米国民の健康、安全、繁栄が中国共産党に依存してはならず、米中経済を切り離す時が来たとして、中国人理工系留学生へのビザ発給停止の検討まで主張している。ホーリー議員は、医薬品サプライチェーンの中国から米国内への回帰を今後のコロナウイルス対策法案に含めるべきとし、中国共産党と協働していると国務省が認定した中国プラットフォーム(テンセント、ファーウェイ、ZTEなど)の米政府職員による公務使用を禁止する法案をテッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)とともに提出した。

■ トランプ後の共和党への影響

この3名の上院議員はポスト・トランプをうかがう次世代共和党の期待の星であり、対中強硬策をその政策の中心に据えている。2016年の共和党予備選でトランプ氏に敗れたルビオ氏だが、上院中小企業委員長として給与保護プログラム(PPP)を超党派でまとめ、24年大統領選に向けて存在感を強めている。コットン氏は安全保障政策や移民政策で党内きってのタカ派であったが、1月の段階で中国の対応をいち早く非難し、中国からの渡航者の入国を禁止するようトランプ大統領を説得した。ファーウェイ問題も含めて共和党内一番の対中タカ派として注目を集めている。上院で最年少のホーリー氏は、シリコンバレーやビッグビジネスに対して批判的なポピュリズムをトランプ大統領から継承しようとしている。トランプ後の共和党のイデオロギー主導権を賭けて争う有力な3上院議員だが、対中姿勢は共通している。

さらに加えると、議会外で24年大統領選の有力候補として取り沙汰されているニッキー・ヘイリー前国連大使の動きも興味深い。同氏は国連大使退任後、ボーイング社の社外取締役に就任していたが、3月に連邦政府に対する同社の支援要請に賛同できないとして辞任した。しかし、その後に対中強硬政策を連邦議会に求めるStop Communist Chinaというプロジェクトを立ち上げており、ボーイングとの関係を断ったのもこの活動を自由にできるようにするためと考えることもできる。

■ 今後の見通し

通常の大統領選では外交政策はあまり注目されないが、今回はすでにトランプ・バイデン両陣営が互いに中国に甘いと攻撃し合っており、コロナウイルス感染拡大の責任が中国政府にあるとのストーリーが米国民の間でさらに受け入れられれば、どちらの候補を利するかは不透明ながら、対中強硬政策は一つの踏み絵となる可能性が高い。連邦議会でも中国を厳しく見る者が多く、特に共和党内の次世代スターたちが際立とうと競って中国批判を繰り広げるなか、米中関係を根本的に見直そうとの動きは今後も広まっていくだろう。

【米国事務所】

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