Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年5月21日 No.3453  先人に学ぶ~論語と算盤とサイバーセキュリティ -押忍!サイバーセキュリティ経営道場!!〈其の壱〉/産業サイバーセキュリティセンター(鉄道分野) 与那嶺大貴

本連載では、情報処理推進機構(IPA)産業サイバーセキュリティセンターで学んだ各分野の専門家が、今の時代に必要なサイバーセキュリティ対策を多角的に解説します(全12回)。今回は、「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一の理念を通してサイバーセキュリティ対策の必要性を解説します。

■渋沢栄一が「論語と算盤」で述べた企業倫理の重要性

渋沢栄一は明治時代に活躍した実業家で、生涯で約500の企業設立に尽力しました。彼はその経営哲学を「論語」と「算盤(そろばん)」になぞらえており、経済活動(算盤)を行ううえで、企業倫理(論語)を大切にし、人々の信用を得ることができなければ企業の富は永続しないと説いています。つまり現代では当たり前となった企業倫理の遵守を明治時代から提唱しており、その先見の明をもって多くの企業を成長に導いたのです。

■算盤がコンピューターへ変化を遂げた現代では新しい企業倫理が必要

一方、令和の時代を迎え、経済活動はサイバー空間上で行うことが主流になりつつあります。今回の新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークやテレビ会議を活用することが、さらにこの流れを加速させることとなりました。このように、時代とともに「経済活動」の枠組みは変化しており、渋沢がその両輪を成すと唱えた「企業倫理」についても時代に合わせた新しい枠組みを構築することが必要であるといえます。

■サイバー空間において人々の信用を得るためには、社員を律するだけでは不十分

これまでの企業倫理は、内部不正を防ぐための社員のコンプライアンス意識向上に主眼が置かれており、社員を律することで企業の信用を守ってきました。しかし、サイバー空間での経済活動においては、サイバー攻撃による機密情報の漏えいや営業活動の停止など、悪意ある第三者からの攻撃により信用を失うリスクが高まっています。そのため、現代において企業が人々の信用を得るためには、内部不正を防ぐ取り組みだけでは不十分であり、サイバー空間における外部からの攻撃を防ぐためのサイバーセキュリティが必要不可欠となっています。

■現代のサイバー社会においてサイバーセキュリティ対策は企業の「本分」である

サイバーセキュリティ対策を行うにあたり、企業はIT関連予算の1割程度が目安といわれる投資費用を捻出し、さらに組織・体制の刷新および専門の人材育成なども行う必要があります。これらを継続的に実施することは容易ではありませんが、サイバー空間における経済活動という時代の変化に対応するためには、避けては通れない課題です。

渋沢は明治維新による資本主義社会の到来という時代の変化を経験した際、「自己の本分だと覚悟を決めるのが唯一の策ではないか」という考えに至りました。つまり、時代の変化を悲観し手をこまねくのではなく、天命だと覚悟を決めて取り組みを進めるほかないと述べているのです。

このように、時代の変化に対応するために倫理の重要性を説き、取り組みを進めた渋沢のように、現代のサイバー社会においても、新たな企業倫理たるサイバーセキュリティ対策に取り組み、人々の信用を得ることが企業の富の永続につながるのではないでしょうか。

「渋沢栄一の教え」

連載「押忍!サイバーセキュリティ経営道場!!」はこちら