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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年7月30日 No.3463 夏季フォーラム2020 -尾身JCHO理事長から新型コロナ対策を聴く

経団連(中西宏明会長)は7月16日、東京・大手町の経団連会館で夏季フォーラム2020を開催(前号既報)。第1セッションにおいて、地域医療機能推進機構(JCHO)理事長で新型コロナウイルス感染症対策分科会長の尾身茂氏から、「我が国のCOVID-19対策」をテーマに講演を聴くとともに意見交換を行った。講演のポイントは次のとおり。

■ 日本の過去の感染症対策の経験と課題

感染症対策の要諦は、「準備」と「迅速な対応」の2点である。日本は他国に比べて、幸いにも、2002年のSARSや09年の新型インフルエンザにおいて感染者や死亡者が少なかった。一方、そのために日本の感染症対策への関心はそれほど高まらず、今回の事態への「準備」と「迅速な対応」への足かせとなってしまった。

感染症の専門家は、10年の新型インフルエンザ対策総括会議において、5つの提言を行った。具体的には(1)病原性等に応じた柔軟な対応(2)迅速・合理的な意思決定システム(3)地方との関係と事前準備(4)感染症危機管理に関わる体制の強化(5)法整備――である。これらのほとんどが今回直面した課題と一致しており、いまも残されたままである。

■ 日本の死亡率が欧米と比べて低く、台湾より高い理由

日本の新型コロナウイルス感染症対策は、欧米の先進諸国と比べて感染者数の増加を抑制し、死亡者数や重症者数を減らすなど一定の成果を挙げている。理由としては、国民皆保険による医療へのアクセス、地方の医療レベルの高さ、全国に整備された保健所を中心とした地域の公衆衛生水準の高さ、市民の衛生意識の高さ、もともとの生活習慣、政府からの行動変容の要請に対する協力の度合い等が挙げられる。

他方、韓国をはじめ東アジアの死亡者数は総じて少なく、なかでも台湾が非常に低位である。この理由としては、SARS等の経験を踏まえた準備や、入国禁止措置など早期の水際対策を講じていたことが考えられる。

■ 世界でも特徴的な日本の新型コロナ対策

日本の対策は世界でもユニークな方法を採っている。インフルエンザの場合、1人の患者が2人、4人と伝播して複数名に感染させるため、新規感染者の濃厚接触者を中心に調査する「プロスペクティブ(前向き)接触調査」が有効である。

他方、新型コロナは、「濃厚接触者の発症率約20%」であり、「(3密の場所で)クラスター感染(集団感染)が発生」という特徴をもつため、プロスペクティブ調査では調査負担対効果が悪い。そこで、日本は「レトロスペクティブ(さかのぼり)接触者調査」という、複数の感染者の過去の行動から「共通の感染源となった場」を見つける方法を採用している。

専門家会議では、「3密」に加えて「大声」を避ける行動を取りつつ、クラスターを制御できれば感染拡大を一定程度制御できると考えている。さかのぼり調査から判明したこの対策は、日本が世界で初めてコンセプトを提示し、海外でも「3C(Crowded,Close-contact,Confined Space)として知られている。

■ あるべき検査体制

緊急事態宣言を発出して強力に感染症拡大を抑えた前回の状況と異なり、いまは感染症対策と経済活動の両立が求められている。そのためには、適切な検査体制の構築が不可欠である。

そこで、これまでの経験に基づき判明した新型コロナの特徴を踏まえて、3つの分類を提示する。第一が、有症状者である。こうした方々が検査を受けられないということはあってはならず、検査体制を強化すべきである。第二が、無症状かつ濃厚接触者である。こちらの方々も感染前リスクが高いので、検査を受けられるようにすべきである。第三が、無症状かつ非濃厚接触者である。こちらは、ビジネスや無症状でも心配な方などさまざまいるため、検査のキャパシティーを踏まえつつ、どこまで認めるのか社会的なコンセンサスが必要である。

■ 今後の対策

現在の東京都の感染状況をみると、爆発的な拡大には至っていないが、大幅減も見込まれない。経済活動との両立という観点から、感染リスクをゼロにする対策も難しい。そのため、国民には「3密」と「大声」を回避するようあらためて求めるとともに、業種や地域を絞ったきめ細やかな対策を行うべきである。同時に、最悪の事態にも備えた次の一手もあらかじめ検討すべきである。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】

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