Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年10月22日 No.3472  わが国マクロ経済の現状と展望について聴く -経済財政委員会企画部会

経団連は10月2日、経済財政委員会企画部会(中島達部会長)をオンラインで開催し、日本総合研究所の枩村秀樹調査部長から、わが国マクロ経済の現状と展望について説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ 個人消費の大幅減

現下のコロナショックでは、家計部門の落ち込みが極めて大きく、2020年4―6月期の個人消費の実質GDPへの寄与度は前年同期比約マイナス7%と、統計開始以来の減少幅となった。

特に、新型コロナ感染拡大の防止のため、厳しい活動抑制を強いられた宿泊、飲食、レジャーといった時間消費型の支出機会が失われ、サービス消費が大きく落ち込んだのが特徴的である。

リーマンショック時にも、コロナショックと同様、大きな景気後退を経験したが、落ち込みが大きかったのは設備投資や純輸出といった企業部門であり、消費支出の減少が財・サービス問わず薄く広く及んだのとは大きく異なる。

■ 厳しさを増す雇用・賃金の動向

個人消費を支える雇用・賃金環境も、今後は厳しさを増していく。20年9月調査の日銀短観では、雇用判断DI(全規模・全産業)がマイナス6と、昨年6月調査のマイナス35と比べて、人手不足感が大幅に和らいでいる。雇用判断DIと失業率には強い相関があるが、19年12月に2.2%だった失業率は今年8月には3.0%まで上昇しており、過去の関係が当てはまれば、今後4%前後になってもおかしくない。

定額給付金は可処分所得を押し上げたが、ほぼすべての世帯への給付を終えており、個人消費の下支え効果は一巡している。企業業績の悪化により、冬のボーナスも相当程度の減少が見込まれ、家計の所得環境は急速に悪化するのではないか。

足元、定額給付金の支給と消費の自粛によって、可処分所得が増加する一方、消費支出は減少している。通常、可処分所得と消費支出には連動性がみられ、足元で起きた両者の乖離はいずれ解消するだろう。そのシナリオとして、(1)消費支出が可処分所得に収斂(自粛緩和→消費性向回復→消費支出増加)(2)可処分所得が消費支出に収斂(自粛継続→失業者増・賃金減→可処分所得減)――の2つが考えられる。シナリオ(1)のほうが望ましいが、Go Toキャンペーンの効果も限定的であり、シナリオ(2)に近づく懸念がある。

特にコロナショックのもとでは、消費支出の増減が二極化している。需要が急減した宿泊、飲食、レジャー等の産業での売上高が回復しなければ、そうした産業での企業倒産の確率が急上昇しかねない。これに加え、自主廃業も増えれば、雇用環境がさらに悪化し、シナリオ(2)にさらに近づくことになる。

■ 中期見通し

わが国の実質GDPがコロナ前の水準まで回復するのは、潜在成長率が1%程度と低いため、欧米先進国よりも後ズレし、24年以降とみている。

菅政権は、改革姿勢を打ち出しているが、今後、悪化する雇用・所得環境に対する経済対策の策定に、政治的リソースを割かざるを得ないだろう。

ただし、新型コロナを経て、変わるものと変わらないものがある。テレワークをはじめとするデジタル化はコロナ後も不可逆的に続く一方、急減した宿泊、飲食、レジャーへの消費支出は、いずれ感染拡大が終息すれば、回復していくと予想している。

【経済政策本部】