1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2020年11月5日 No.3474
  5. EUの炭素国境調整措置<上>

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年11月5日 No.3474 EUの炭素国境調整措置<上> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

有馬研究主幹

■ 炭素国境調整措置とは何か

炭素国境調整メカニズムは、フォンデアライエン欧州委員会委員長の欧州グリーンディールの看板政策である。同委員長は2050年ネットゼロエミッションを目指し、2030年目標を1990年比マイナス40%から90年比マイナス55%に引き上げることを標榜している。欧州議会はそれをさらに上回る90年比マイナス60%目標を採択した。しかし、野心レベルを引き上げれば必然的に域内産業の負担するエネルギーコストが上昇する。その結果、EUよりも野心レベルの低い他地域との関係で国際競争上不利となり、貿易収支の悪化、カーボンリーケージを招く可能性がある。EUへの輸入品に体化されたCO2排出量に応じた課税もしくはクレジット取得の義務付けを行うことによって、EU域内産業のレベル・プレーイング・フィールドを確保しようというのが炭素国境調整措置の発想である。昨年12月に欧州グリーンディールが発表された当初は「炭素国境税」と呼称されていたが、その後「炭素国境調整措置」に改められた。

この施策はサルコジ元大統領をはじめ、フランスが以前から主張してきたものである。これに対し、EU内の自由貿易派である英国、ドイツはWTOとの整合性や報復の連鎖を懸念し、消極的なのが常であった。しかし英国がEUから離脱し、米国のトランプ政権による温暖化軽視姿勢がますます顕在化するなかで、これまで慎重派であったドイツが検討に応じるようになってきた。EUグリーンディールに炭素国境調整措置が盛り込まれたのは、このドイツの柔軟姿勢によるところが大きい。

当然ながら、貿易相手国は炭素国境調整措置をめぐる動きに神経をとがらせている。今年1月のダボス会議では、米国のロス商務長官が「国境調整炭素税がデジタルサービス課税のような保護主義的なものであれば対抗措置をとる」と明言しているし、中国は「温暖化防止の国際協力に悪影響を与える」と牽制球を投げている。

■ 欧州委員会による初期インパクトアセスメント

今年3月、欧州委員会は炭素国境調整措置の一環として初期インパクトアセスメントを行い、炭素国境調整措置の導入検討の背景を説明するとともに、広く内外のコメントを募った。ここで欧州委員会は、炭素国境調整措置の目的はWTOその他の国際約束との整合性を確保しつつ、輸入品の価格が炭素含有量をより正確に反映することを目指すものとしている。炭素国境調整措置の形態としては、(1)特定製品に対する炭素税(輸入品、国産品に同等に賦課)(2)輸入品に対する新たな炭素関税もしくは課税(3)EU排出量取引制度(EU-ETS)を輸入にも適用――の3つのオプションが示されており、輸入品の炭素含有量については、EU-ETS実施のために用いられたベンチマークを使うことが示唆されている。また、炭素国境調整措置はカーボンリーケージのリスクが最も高い特定セクターのみを対象とするとしている。

【21世紀政策研究所】

「21世紀政策研究所 解説シリーズ」はこちら

「2020年11月5日 No.3474」一覧はこちら