経団連のヨーロッパ地域委員会(越智仁委員長、佐藤義雄委員長)は10月28日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、兒玉和夫前欧州連合日本政府代表部大使から、英国のEU離脱とEU情勢等について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 英国のEU離脱と英EU将来関係交渉の行方
英国からみたEUの意義は、あくまでも「独立した主権国家間の合議体」にあり、加盟国の国家主権を限りなくEUに移譲する「欧州合衆国」のビジョンに英国は一貫して反対であった。実際、共通通貨ユーロの導入や、域内の人の自由な移動を可能とするシェンゲン協定といった統合深化の試みには参加していない。つまり、Brexitの本質は、加盟国によるEUへのこれまでの主権移譲は行き過ぎであり、「主権を取りもどす」ことにある。
英EU間の将来関係を決める交渉上の重要な争点の1つが、「公正な競争条件」の確保である。EUからの「主権回復」を主張する英国は、規制のフリーハンドを主張、一方EUは、英国の規則がEU規則と乖離し公正な競争条件が維持されなくなれば、英国企業のEU市場向けダンピングを招来すると批判する。公正な競争条件に関する基本原則に合意し、競争条件が歪められた場合には、紛争解決手続きに委ねるとする案が検討されている。来年1月1日の協定発効のためには、11月中旬が合意の最終期限である。
■ 欧州委員会の主要政策
今後5年間の欧州委員会の最重要政策は、欧州グリーンディールとデジタル革命(DX)の推進である。
欧州委員会は、気候変動問題を最優先課題として取り組んでいる。欧州グリーンディールの特徴は、「2050年の排出ゼロ達成」と「経済成長」を両立させる「持続可能な成長戦略」と位置付けていることにある。具体的手段の1つが、経済活動が「グリーンな持続可能な成長」に資するか否かを示す統一的な分類システム(タクソノミー)の採択である。EUは、これを公的融資の適格性等の指標として適用すべく検討を進めている。デジタル政策に関しては、(1)人間のための技術(2)公正で競争力あるデジタル経済(3)オープンで民主的かつ持続可能な社会――の3つを柱に、AI利用や、プラットフォーマーの責任のあり方等、欧州委員会主導でさまざまなルールが検討されている。
菅政権は、温暖化ガスの排出を50年までに実質ゼロとする方針を打ち出したほか、デジタル庁を新設するなど、「温暖化」と「デジタル革命」という世界の2大メガトレンドを見据えた政策を打ち出した。日本とEUがこれらの分野を中心に戦略的連携・協働の道を探求することを期待する。
【国際経済本部】