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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年1月1日 No.3481 今後の世界経済の展望について聴く -伊藤学習院大学教授が講演/経済財政委員会

経団連は11月27日、経済財政委員会(柄澤康喜委員長、永井浩二委員長)をオンラインで開催し、学習院大学国際社会科学部の伊藤元重教授から、今後の世界経済の展望について講演を聴くとともに意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ コロナ危機の経済への影響

新型コロナウイルスにより世界経済は大きく落ち込んだが、現状、グッドニュースとバッドニュースがある。

グッドニュースは、金融危機にまで深刻化しなかったことである。一度金融危機に陥ると、元の経済水準まで回復するのに7~8年はかかるが、今回は金融危機が生じていないため、コロナ危機が収まれば、早期に経済が回復に向かうと期待される。

バッドニュースは、新型コロナが思った以上にしつこいことである。足もとで感染が再拡大しているほか、今後も感染拡大が懸念される。

■ 構造的課題

コロナ危機の前から、日本は低成長・低金利・低インフレという「3低」に加え、政府・日銀の債務膨張という構造的問題を抱えていた。この「日本化」が、コロナ危機により、世界各国に広がっている。

日本経済については、これまでアベノミクスの大胆な需要喚起策によって、株価の上昇や失業率の改善などの成果があったが、国民の間で経済がよくなっている実感に乏しい。その最大の原因は成長率が低いことにある。経済は需要と供給から成るので、需要喚起策だけでは不十分であり、供給サイドも強化しなければならない。菅政権が掲げるデジタルトランスフォーメーション(DX)とグリーン成長は供給サイドの強化と関係が深く、前者は生産性の向上、後者は資本ストックの増加に寄与することが期待される。

■ 米中摩擦

コロナ危機以前から米中の貿易摩擦は深刻化していたが、並行してWTOが機能不全に陥っていた。現行のWTO体制では、最恵国待遇条項によって、先進国間の合意による恩恵が、後から加盟する途上国も享受できる。中国は2001年にWTOに加盟以降、途上国の立場を維持して恩恵を受け、輸出を大幅に拡大してきた。しかし、中国は外資の100%出資を認めない出資規制や外国企業に対する技術供与の義務付けも行っているため、米国をはじめとする先進国側は不満を持っている。機能不全にあるWTO体制のもとでのこの問題解決は困難とみている。

米中摩擦は、伝統的な貿易摩擦よりも複雑化している。トランプ大統領も、最初は中国からの輸入が多すぎるので関税を引き上げたが、後に華為(ファーウェイ)問題に発展している。ポイントは2つある。1つは安全保障政策と密接に関わるということ、もう1つはハイテク産業であるということである。ハイテク産業は規模の経済が効きやすいため、補助金や国内マーケットを優先的に拡大するといった産業政策による効果が大きい。中国の政治体制からすれば、こうした産業政策は当たり前のものであり、米国との摩擦は避けがたい。

次期米国大統領選出が確実視されるバイデン氏は、ルールを重視するとともに、グリーン成長にも関心が高い。中国も環境分野に積極的に投資しており、米中間で環境分野の協力と貿易・投資の自由化とをセットにすることで、今後歩み寄りがみられるかもしれない。

【経済政策本部】

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