経団連は1月25日、人口問題委員会(隅修三委員長、宮本洋一委員長、清水博委員長)をオンラインで開催し、東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授から、「子育て支援の経済学」をテーマに、エビデンスに基づく今後の少子化対策のあり方等について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 子育て支援は次世代への投資
わが国の子育て支援にかかわる政府支出額の対GDP比は、OECD加盟国の平均値よりも低い。政府支出額の対GDP比と出生率の間には正の相関がみられ、出生率を向上させるには子育て支援額を増やす必要がある。
加えて、少子化対策は子どもの貧困対策にも資する。子育て支援を充実して、胎児期・乳幼児期の経済状態がよくなれば、成人後の健康・教育・就業等にプラスの影響を及ぼす。
子育て支援は将来の経済成長、税収増や社会保障費用の減少につながる、将来に対する投資ととらえるべきである。
■ 少子化対策のエビデンス
現金給付の効果分析の事例として、カナダ・ケベック州の「新生児手当」、スペインで導入された所得制限なしの「出産一時金」がある。いずれも出生率の向上に、多少の効果はあったと評価されている。なお「第二子、第三子に給付を手厚くすべきだ」との意見もあるが、政策効果は不明である。日本のエビデンスは乏しく、現時点では信頼性の高いデータがない。
現物給付の効果分析の事例では、2000年代に保育所整備を増やした旧西ドイツや日本において出生率が向上したとのエビデンスがある。
最近の研究では、女性の家事・育児の負担軽減が効果的な少子化対策であると指摘されている。
19年に発表された欧州19カ国の調査においては、子どもを持つかどうか夫婦間で意見が一致しない場合、(1)次の3年間で子どもが生まれていない(2)妻が反対していることが多い(3)妻が反対している家庭では、夫の子育て・家事参加度が低い――との結果が示されている。
従来、夫婦全体の子育て負担に着目し、児童手当や子育て世帯への税制優遇等の現金給付を充実させてきた。しかし、子育て・家事の負担は妻の方が大きい。妻の負担を軽減するためには、保育所の拡充、待機児童解消といった現物給付や男性の育児休業取得の推進が望ましい。
■ 全世代型社会保障改革における少子化対策への評価
待機児童の解消は、最優先かつ必ず達成すべきであり、男性の育休取得促進も有効性は高い。少子化対策の財源は、受益が広く社会全体に及ぶことから、子どもを持つ人も子どもを持たない人も負担すべきである。消費税も考えられるし、受益者が次世代になるので国債発行も必ずしも悪手ではない。
家族形態が多様化しても、家族主義の考えが強いままだと、特に若者は結婚や子どもを持つこと自体を負担ないしリスクとみなしてしまう。
今後は、セーフティーネット機能を家族だけではなく、社会全体で担う方が、若者が家族を持つことに前向きになれるのではないかと考えている。
【経済政策本部】