経団連は2月3日、イノベーション委員会企画部会(江村克己部会長)をオンラインで開催し、津田塾大学総合政策学部の森田朗教授から、「『未来の教室とEdTech』がめざすもの」をテーマに説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 初等中等教育改革の必要性
教室での一斉授業という画一的な教育スタイルは、明治時代から効果的な教育手法として採用されてきたが、今、変革が求められている。
社会のデジタル化によって、ITを使いこなす能力や課題解決能力などをもった人材が求められるようになってきている。
例えば、世の中のものごとの因果関係をビッグデータから推定し、課題解決や人々の行動の意思決定に役立てるための基礎的な論理的思考力や、ITスキルを身に付けた人材である。しかし、初等中等教育の現場では、いまだに十分なIT教育がなされていない。
数学を社会に応用する力や人間の感性を反映させるデザイン力などを磨くためのSTEAM教育、データ利活用のためのIT教育に早急に取り組んでいく必要がある。
そもそも、一人ひとりの子どもたちには得意・不得意の個性があることから、本来なら画一的な教育ではなく個別最適な教育をすべきである。しかし、教員には保護者対応や部活動での指導など課外業務が多く、一人の教員が大勢の子どもたちそれぞれに合った教育を行うことには限界がある。
この限界を打ち破るための手段の一つがデジタル技術の活用である。子どもたちの特性を大量の学習データから分析・把握し、従来の教育をきめ細かい個別最適な教育へと改革する必要がある。
■ デジタル技術を活用した教育のあり方
文部科学省のGIGAスクール構想の実現に向けて、小・中学生一人一台端末の整備が進んでいる。この施策の重要なポイントは、子どもたちが教育用アプリで学習することと、アプリで出題された問題の解答率や正答率、問題の解答プロセス等の反応情報などのスタディー・ログ(学習履歴)を収集・分析し、教育法の改善に活かすことである。子どもたちの個性や、どのような教育法・学習プロセスならば高い学習効果があるのかなどを把握することによって、個別最適化学習を実現していくべきである。
また、家庭・社会環境やその後のキャリアパスなどに関する情報も収集・分析し、新しい教育・学習法の開発やさらに社会保障・労働などの他分野の政策の改善にも活かすべきであろう。
克服すべき課題は、学習データを教育に活かすことへの正しい理解が進んでいないことである。経団連の加盟企業も多様な人材を育むべく、求める人材という枠を設定する認識を改めていく必要がある。また、学習のための高速ネット環境をはじめとしたデジタル技術の社会インフラも、早急に整備していくべきである。
【産業技術本部】