経団連事業サービス(中西宏明会長)は2月19日、第44回昼食講演会をオンラインで開催し、日本大学危機管理学部教授の先崎彰容氏から「令和日本のデザイン―新型コロナの課題と展望」をテーマに講演を聴いた。概要は次のとおり。
■ コロナ禍で顕在化した2つの自由
昨年4月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、戦後初の緊急事態宣言が発出され、また国内に住む日本人などに対し10万円が一律給付されることになった。欧米などでは同様の給付が申請から数日でなされたのに対し、日本では数カ月を要したことから日本中で混乱が起きた。給付遅延の原因として、給付を行う自治体の事務のデジタル化が進んでいないことに加え、「マイナンバーカード」の普及が進んでいないことが挙げられた。なぜ普及が進まないのか。国家を強者、権力とみなして自分の自由を一切国家に渡さない、私権制限拒否の自由という考え方が戦後一貫して支配的だったからではないか。これは「平常時の自由」といえる。
緊急事態宣言が発せられる状況は非常時である。非正規雇用のシングルマザーで仕事を失い、生活に困窮している人が数多くいる。そのような最も弱い人々が速やかに給付を受けられる自由、いわば「非常時の自由」が尊重されなくてはならない。弱者にとっての給付は、単に金銭的な余裕を生み出すだけではなく、精神的な余裕をもたらし、家庭内の虐待や本人の自殺を防ぐことにもつながる。
非常時の自由は、平常時の自由を多少なりとも制限することによって成り立つ。政府が果たすべき役割は、現在の状況を踏まえて、これら2つの自由のバランスさせた政策を実行していくことである。
■ 相互扶助社会の再構築
コロナ禍にあっても「自助」が強調されるなか、自分が社会のなかで一定の役割を持っていると感じられない、社会から相手にされていないという感覚を持つ人々が増えている。もともと日本の社会に存在していた「相互扶助」の意識や仕組みを取り戻す必要がある。これは政府の役割であると同時に、共同体としての機能を果たしてきた企業の役割でもある。相互扶助社会の再構築に向けた企業の役割に期待したい。
【経団連事業サービス】