経団連は6月9日、観光委員会企画部会(今泉典彦部会長)をオンラインで開催し、日本旅行業協会と九州観光推進機構から、観光の持続可能性の確保に向けた取り組みや課題等を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。
■ 日本旅行業協会(志村格理事長)
2020年の旅行消費額は11兆円にとどまり、前年比で17兆円が蒸発した。インバウンドが伸びてきたとはいえ、旅行消費額の8割は国内旅行によるものである。旅行会社が生き残るには、日本人の観光スタイルの変化にあわせて、自らの役割を見直すことが欠かせない。社員旅行に代表される団体・宴会型は個人・家族型に、物見遊山型は体験型や社会貢献型へと変わってきている。
これからは、「住んでよし訪れてよし」の理念のもと、地域が何を見せ、どのようなお客さまを呼び込みたいのかを考えることが大切であり、DMO(観光地域づくり法人)が重要となる。旅行会社は、農業や水産業などの異業種を含めた各地域の意向をくみ取り、マーケティングやマッチングなどの役割が期待される。
より広い視点で持続可能性を考えた場合には、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが重要であり、観光庁の「持続可能な観光ガイドライン」に沿って、旅行商品、観光地を開発していく必要がある。コロナ禍で当協会は、ワクチン接種記録などのヘルスパスポートの動きを把握し、利用者目線からの導入に向けた検討に参画している。また、国内旅行では、旅行会社8社の協力のもと、感染対策を徹底したモニターツアーを実施し、「新しい旅のかたち」を検証するなど、安心安全のもとでの観光再開を目指している。
■ 九州観光推進機構(渡邉太志専務理事事業本部長)
当機構は、「九州はひとつ」を掲げた九州地域戦略会議(九州地域の官民トップで構成)が策定した「九州観光戦略」に基づき、05年に誕生した。「観光産業を九州の基幹産業に!」をビジョンに、各県、経済団体、関係事業者と役割分担して観光振興に取り組んでいる。目標は、23年までに、観光消費額を九州の自動車産業の経済効果と同じ4兆円(国内外の合計)にすることである。
国内・アジア各国からの誘客に加え、近年は訪日客の多角化を図るため、欧米豪向けのPRを強化している。特に「九州独自の価値」を打ち出すことで、他地域との差別化がなされるよう、「Energy~活きた火山とともに生きる」「Fertility~海に囲まれた豊かな大地」「Gateway~人と文化が融合する日本の玄関口」といったキーワードでブランドコンセプトを明文化し、発信している。このほかに、消費単価の向上につながる「One More Stay」の提唱、アドベンチャーツーリズムを通じた新たな九州の魅力の開発と発信なども行っている。
広域連携DMOとして観光地域づくりを進めるにあたり、JNTO(日本政府観光局)、地域連携DMO、地域DMOの役割分担を整理する必要がある。
JNTOが、全国の各地域が有する魅力あるコンテンツや課題を把握することは難しい。当機構のような広域連携DMOが、地域全体のコンテンツ開発や戦略策定、マーケティングなどの取りまとめ役となり、JNTOと地域を結ぶ役割を担っていくことが重要である。
【産業政策本部】