経団連は7月6日、地域経済活性化委員会(古賀信行委員長、小林哲也委員長、月岡隆委員長)をオンラインで開催し、東京大学大学院教育学研究科の牧野篤教授から、多様な主体の参画による地域づくりに求められる視点等について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
大学などで学生と接するなかで、若者に諦めと孤立があると感じている。若者たちは、子どものころから「お客さま」として扱われ、自己を否定されないものの、真に承認を得ている実感がないなかで自立を求められ、周りに相談できずに孤立してしまう。企業などに入っても、孤立した状況が変わらないまま、諦めを感じ辞めてしまう例もある。
地域コミュニティーでも同様の現象が生じている。住民がケアやサービスを繰り返し受けることで「お客さま」と化してしまい、過疎化が進行するなかで「自立」ができなくなっている。状況を改善するため、まちづくりなどの領域で、パーパスやビジョンを共有しながらさまざまな手法を導入して、PDCAサイクルを回すことに努めてきた。しかし、評価を意識するあまり、達成可能な目標が計画されるようになり、取り組みが縮小していく状況に陥っている。
これらの手法は、個人の行動に焦点を当て、個人と個人の関係の積み上げで組織や社会をつくることを目指すものであり、担い手に諦めや孤立があると、手詰まり感が生じてしまう。
したがって、地域づくりを進めるうえでは、個人と社会の関係をとらえ直す必要がある。個人を前提にするのではなくて、社会から個人が生まれるととらえる。社会のなかで、自分のことを突き詰めると、誰もが「そうだ」と思えることに出合うため、社会の変化に応じた学び直しが常にでき、新しい自分を発見できる。この一連の流れを楽しさとして感受し、暮らしのなかで互いに贈り合い、自分のものとしていく。個人と社会の関係のとらえ直しを前提として、「AAR循環」(自ら楽しいことを考え<Anticipation>、実践し<Action>、振り返る<Reflection>という「開放系」の試行錯誤の循環)を繰り返せる社会としていくことで、誰もが担い手として活躍できるようになる。
学生や地域住民、自治体や企業と一緒に、このAAR循環が繰り返せる地域づくりを進め、高齢化や過疎が進む地域でも活性化する事例を積み上げてきた。現在は、東海道新幹線岐阜羽島駅(岐阜県羽島市)の駅前再開発プロジェクトにおいて、自転車を軸として、孤立のない地域づくりに取り組んでいる。具体的には、コロナ禍で心身の健康に不安を抱える人が増えるなか、まちにかかわるすべての人との間で対話をつくり出せるよう、自転車を活用し、スマホでつながりながら行うグループでのツーリング、食の配達などを進めている。フランスのパリでは、市内の至る所を自転車の15分圏内にすることで、対話、食、運動を常に体感することができる都市づくりを進めている。これを参考にしながら取り組みを進めていきたい。
【産業政策本部】