経団連は7月2日、社会保障委員会医療・介護改革部会(本多孝一部会長)をオンラインで開催し、ニッセイ基礎研究所の三原岳主任研究員から、「コロナが浮き彫りにした医療提供体制の課題と展望」について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 医療提供体制の改革の必要性
医療提供体制の改革の必要性として2点挙げられる。
まず、増大する医療費の抑制を図るという観点である。都道府県別でみた人口比の病床数と医療費には強い相関関係がある。これは、医療の需要が患者のニーズだけでなく、医師の判断や行動でつくり出される傾向(医師需要誘発仮説)を示している。医療費を抑制するためには、過剰な病床の削減が求められる。
また、国民のニーズに対応するという観点もある。昨今、在宅での療養を望む国民が増加するとともに、疾病の中心が慢性期へと変化している。こうした変化に対応するためには、病院中心の医療(医学モデル)から、在宅など生活を支える医療(生活モデル)への転換が必要である。
こうした状況を踏まえ、2017年度から地域医療構想の推進が始まった。地域医療構想では、各都道府県が、25年時点の必要病床数を機能別に明らかにし、現在の病床数とのギャップを解消するために、地域の実情に応じて、急性期病床の削減や回復期病床の充実など病床の機能分化・連携を進めることとされた。これに対し国もさまざまな支援を行ってきた。
しかしながら、地域での合意形成が課題となり、地域医療構想に向けた病院再編の論議はなかなか進まなかった。とりわけ、国や都道府県が実効権限を持たない民間医療機関への対応が課題であった。
■ 新型コロナが浮き彫りにした課題
こうしたなか、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界一の病床大国である日本で医療が逼迫した。その理由として、(1)医療機関の役割分担・連携が不十分(2)必要な機能を発揮できない急性期病床の存在(3)民間医療機関での受け入れが不十分――が挙げられる。これらは、地域医療構想の課題と共通している面も多い。まさに新型コロナは医療提供体制の課題を浮き彫りにしたといえる。
今後の提供体制改革にあたっては、国レベルの対応だけでなく、都道府県レベルの取り組みも必要である。県単位で地域医療構想と医療費抑制目標をリンクさせ、県民の受益と負担の均衡(国民健康保険料の水準、地域別診療報酬制度の活用)を意識しながら取り組みを進めようとしている、奈良県の事例なども参考となる。
【経済政策本部】