経団連(十倉雅和会長)は7月19日、東京・大手町の経団連会館で防衛産業委員会(泉澤清次委員長)の2021年度総会を開催し、2020年度の活動と収支決算、2021年度の活動計画と収支予算が報告された。
田中明彦政策研究大学院大学長から、わが国の安全保障環境をめぐる課題について講演を聴くとともに意見交換した。講演の概要は次のとおり。
■ 冷戦後の世界システムの構造変容
冷戦後の世界システムの大きな特徴は、グローバリゼーションである。世界全体のGDPに占める輸出の割合は1990年ごろに約15%、2000年には約25%に増えた。
グローバリゼーションの進展により、中国が最大の経済成長を達成した。中国は改革開放政策により世界経済に組み込まれ、10年ごろにGDPが世界第2位となった。
米国と中国の対立が、現在の国際政治の構造を規定する要因である。中国は経済力に加え、技術力や軍事力も増強して、米国と二極対立している。米国の自由民主主義と、中国の専制主義というイデオロギー面での対立も顕在化している。
現在の世界システムでは、グローバリゼーションにより経済が密接に結び付いているため、こうした対立があるにもかかわらず米国が中国を完全に封じ込めることは困難である。安全保障のために、米国が中国との間で全面的なデカップリング(切り離し)を行うことは大変難しい。
■ 日本の安全保障にとっての3つの脅威
世界システムの構造が変化していくなかで、日本が直面する安全保障にとっての脅威は3つある。
1つ目は、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発への対応である。1990年代から現在まで一貫して、安全保障上の大きな問題である。
2つ目は、中国の軍事力と海警能力の増強である。中国の国防予算は日本の防衛関係費の4倍以上であり、海軍や空軍の能力を強化している。また、海警の船を増やして、尖閣諸島周辺に派遣している。
3つ目は、国家・非国家による非定型的脅威である。テロやサイバー攻撃などの非定型的脅威に対応する必要がある。
■ 冷戦後の日本の安全保障政策の展開
冷戦後、日本は安全保障に関し、2003年に武力攻撃事態対処関連3法、13年に国家安全保障会議設置法、15年に平和安全法制を成立させた。また、中国の海洋進出に対して、南方方面を重視するようになった。尖閣諸島周辺における自衛隊と海上保安庁の連携が重要である。
近年は、経済を使った非定型的脅威に対応する経済安全保障が重要になっている。サプライチェーンにおける日本経済の弱点をなくすことが必要である。
■ わが国の安全保障環境をめぐる4つの課題
今後、わが国の安全保障環境をめぐり注目すべき課題は4つある。
1つ目は、台湾海峡の安定と平和である。米中対立において、民主主義の台湾を守ることが中国に対する抑止力になる。
2つ目は、弾道ミサイル防衛である。中国や北朝鮮の弾道ミサイルに対して、日本独自の反撃能力を持つべきかを議論する必要がある。
3つ目は、海上保安能力の向上である。日本の海上保安庁が法執行能力で中国の海警を上回ることが重要である。
4つ目は、日米同盟強化と多国間連携である。日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国によるQuadの首脳会談の開催には意義がある。G7諸国が連携すれば、中国の経済・軍事力の強化に対応できる。
【産業技術本部】