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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年9月9日 No.3513 気候変動政策を中心とする最近のEU情勢 -山崎JETROブリュッセル事務所長から聴く/環境安全委員会国際環境戦略ワーキング・グループ

山崎氏

経団連の環境安全委員会国際環境戦略ワーキング・グループ(手塚宏之座長)は8月24日、オンラインで会合を開催し、日本貿易振興機構(JETRO)/日本機械輸出組合(JMC)の山崎琢矢ブリュッセル事務所長から、気候変動政策を中心とする最近のEU情勢について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

新型コロナウイルスからの経済回復の状況は、EU域内で相当の差があり、各国間の格差是正が大きな政治的課題となっている。2020年7月に欧州理事会が合意した復興基金は、この格差を是正するための予算ツールと位置付けられ、予算額の37%以上はグリーン政策に拠出することとされている。

こうしたなか、21年6月、EUは、30年の温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減する目標を正式に決定した。この目標の実現に向け、7月14日に13の制度改正の法案パッケージである「Fit for 55」を公表した。

同パッケージは、カーボンプライシングと各種規制措置、予算措置を駆使して55%削減を目指す内容となっており、広範な分野をカバーしている。大きなポイントの一つは、EU-ETS(EU域内排出量取引制度)の強化である。とりわけ、建築・陸上輸送セクターへの新たな排出権取引市場の創設は、同セクターにおける燃料費高騰の懸念を生じさせるなど、大きな争点となっている。既存のEU-ETSとは別の制度と位置付けるなど、慎重に制度を設計しており、これを乗り切ることができるかが、Fit for 55の成否を握る。

国際的には、EU域外の気候変動対策の緩い国からの輸入品に関税を課す「炭素国境調整措置」(CBAM)の創設も関心を集めている。導入にあたって、現行のEU-ETSでの排出権の無償割当の廃止を盛り込んでおり、無償割当を得ているEU域内の業界は反対している。これらの業界に配分する補助金の金額次第で、EU域内の反対はクリアできる可能性はあるものの、米国や中国は反対の姿勢であり、ロシアやウクライナといった対EU輸出額の多い国がWTOに提訴するリスクも残っている。

Fit for 55については、9月から欧州議会およびEU理事会での審議が始まる。13本もの法案が同時に提出されることは前代未聞である。提案から成立まで平均18カ月程度を要するなか、今後、22年の年末の成立を目指し、議論が進められることになるだろう。

【環境エネルギー本部】

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