経団連のヨーロッパ地域委員会企画部会(清水章部会長)は9月7日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、経済産業省通商政策局の吉川尚文欧州課長から、EUの気候変動政策および日EUグリーン・アライアンスについて、グリーン分野における日EU連携の観点から説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ EUの気候変動政策
2019年末のフォン・デア・ライエン新体制発足直後に公表された欧州グリーンディールは、新型コロナウイルス下でも着実に進捗している。昨年末、30年温室効果ガス排出量の削減目標を対1990年比で40%減から55%減へと引き上げ、今年7月1日には、2050年カーボンニュートラル達成への法的拘束力を付与する「欧州気候法」が発効された。続いて7月14日には、30年目標を達成するための一連の気候変動対策法案「Fit for 55パッケージ」が公表された。同パッケージには、炭素国境調整措置(注)の導入、EU-ETS(EU域内排出量取引制度)の対象産業の拡大、自動車の排出規則の強化など12の法案に加え、低所得者層支援のための社会気候ファンドの創設が盛り込まれている。今後、各法案の審議が行われるが、産業界とのすり合わせやWTOルールとの整合性の確保が必要な部分も多く、通常のプロセスより時間を要すると見込まれる。また、審議過程で内容が変わる可能性もある。
EUは、グリーンディールの中核を成すタクソノミーの拡大をあわせて進めている。タクソノミーとは、持続可能な経済活動を定義したものであり、これに該当する活動が「グリーン」に分類される。企業は自らの活動におけるグリーン比率、金融機関は投融資先のプロジェクトのグリーン比率の開示を求められる。EUは今後、タクソノミーを拡張し、「グリーン」だけでなく、有害な活動に分類される「レッド」の比率についても開示させる計画である。英国やシンガポールもタクソノミーを策定予定であり、中国はEUに接近する姿勢をみせている。日本としても、トランジションを意識した意見を積極的に発信し、国際ルール形成の議論から取り残されないようにしなければならない。
■ 日EUグリーン・アライアンス
バイデン政権発足により、環境政策において米欧が近接するなか、日本もグリーン分野における米欧との連携を拡大すべく、米国とは日米気候パートナーシップ、EUとは日EUグリーン・アライアンスをそれぞれ立ち上げた。日EUグリーン・アライアンスでは、技術協力や第三国支援、国際ルールの整備などが協力内容として挙げられており、現在、具体的な連携項目を検討している。日本もグリーン成長をめぐる戦略競争を主導する側に回り、ルール策定に強みを持つEUとの協力を具体化しながら、国際ルール整備の議論に参加していくことが不可欠である。
(注)特定品目の輸入に際し、当該物品がEUの基準に基づいて生産された場合に生じ得る炭素価格に応じて、証書の購入を義務付ける措置
【国際経済本部】