経団連は9月1日、企業行動・SDGs委員会企画部会(上脇太部会長)をオンラインで開催した。国際使用者連盟(IOE)のマティアス・ソーン事務局次長と、国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部使用者関係局のアダム・グリーンシニアアドバイザーから、国連や欧州におけるビジネスと人権に関する最新動向や課題について、説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ 国連指導原則に関する動向
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が2011年6月に採択されて10年がたった。指導原則は、3つの柱((1)人権を保護する国家の義務(2)人権を尊重する企業の責任(3)救済へのアクセス)で構成されており、企業に対して、人権を尊重する責任を主体的に果たすよう促している。
ビジネスと人権ワーキンググループでは、21年6月に現状評価レポートをまとめており、今年12月には、指導原則の今後の10年のロードマップ「UNGPs 10+」を策定する予定である。また、国連機関がビジネスと人権に関するフォーラムを定期的に開催してきたこともあり、アジアでは取り組みが活発化している。
■ 欧州における法制化
欧州を中心に、企業による人権への取り組みを促すため、デュー・ディリジェンス(DD)の実施を義務付ける法整備の潮流が高まっている。
EUの欧州議会は21年3月に採択した決議で、企業に対し、人権と環境のDDの実施を義務付けた。6月に提出されたEU指令案は差し戻しとなり再検討中だが、その対象は、上場企業に加えて、高リスク産業で事業を行う中小企業や、EU域内で事業を行う外国企業等が含まれている。なお、DDの実施範囲はサプライチェーン全体とされており、賠償責任も課される見込みである。指令の採択後、加盟各国において法制化されるが、それに先立ち、今年に入ってから新たに、スイス、ドイツ、ノルウェーの3カ国で法制化が進められている。
また、欧州委員会は、21年4月に非財務報告に関する現行の指令を「サステナビリティ報告に関する指令」と、名称も変更する改訂案を公表した。同案は、将来的に起こり得るリスクも想定することが必要とされ、対象企業もより幅広くなっている。現在、欧州委員会、欧州議会、閣僚理事会の間で自主的な監査を行い、新たな指令案を審議している。
■ 法制化における課題
現在整備が進むEU指令をはじめとする法的枠組みと、指導原則の間には、乖離がみられる。指導原則における「人権を尊重する責任」はすべての企業が遵守すべきものであり、政府から企業へ、企業から取引先企業へ、責任をシフトすることを企図していない。他方、多くの法律では、サプライヤーから取引先へ、さらにその先の取引先へと、サプライチェーンの最下流に責任を押し付けようとしている。この状況は、指導原則に照らすと大きな課題といえる。
人権リスクの多くは、個社だけでは解決できない基本的な開発問題(貧困、腐敗等)に起因しているため、企業が責任を果たす前提として、政府が「人権を保護する義務」を果たす必要がある。
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意見交換では、法制化の流れが加速するなか、企業としてすべきことは何か、という質問に対し、ソーン氏は、「個々の企業が、国連や政府を動かすことは難しいが、IOEやILO等の組織が企業の声を代弁することは可能である」、またグリーン氏は、「企業が人権DDを行う際は、ビジネスに関するリスクばかりに注目し、人間の安全保障(注)にかかるリスクに注目できていないことが多い。最も重大で根源的なリスクへの対応を最優先すべきである」とコメントした。
(注)国家よりもむしろその最小構成単位である人間に注目し、人間の生存、生活、尊厳を脅かすすべての脅威を包括的にとらえて、その脅威に対する取り組みを強化するための基本概念。伝統的な国家安全保障を補完するものであり、「保護」と「能力強化」を総合的に進めることが重要とされる
(「人間の安全保障委員会」報告書より)
【SDGs本部】