自由で開かれた貿易を推進する一方で、経済安全保障の確保が急務となっている。今般、技術提供取引を通じた機微技術の国外流出を防止する観点から、日本国内における非居住者への特定技術の提供を国外への提供とみなし、これを管理する、いわゆるみなし輸出管理のあり方が見直され、来年5月1日から新制度が適用される。そこで、経済産業省から、制度改正の概要および企業が留意すべき事項について寄稿いただいた。
※ 所属は執筆当時のもの
わが国を取り巻く国際秩序は変容を続けており、安全保障貿易管理を含む経済安全保障の重要性が増している。とりわけ、米中対立の激化は、単なる通商摩擦や経済力競争を超えてgreat power competitionのもとでの覇権争いに発展し、自国第一主義に拍車をかけている。そのようななか、技術優位性の毀損や技術の脆弱性が安全保障上の懸念であるとの認識のもと、安全保障と経済を一体ととらえた政策を推進する動きが世界的にみられる。日本政府においても、10月に発足した岸田文雄新内閣のもと、新たに経済安全保障担当大臣が置かれるなど、経済安全保障の取り組みを強化・推進している。
かかる状況を背景に、産業構造審議会通商・貿易分科会安全保障貿易管理小委員会中間報告(2021年6月)は、安全保障にかかる機微技術が人を通じて流出する懸念に対応すべく、みなし輸出管理制度(外国為替及び外国貿易法〈外為法〉第25条第1項)の見直しを提言した。同提言を受けて、みなし輸出にかかる概念を明確化するため、21年11月18日付で役務通達の改正が公表され、22年5月1日から適用される。
今般の改正により、企業内における技術提供や大学における留学生等への技術提供も、提供先が特定類型(後記参照)に該当する場合、みなし輸出の管理対象になり得る。国際的な水準で適切に機微技術を管理することは、日本企業がグローバルに事業展開するうえで不可欠であり、影響が及ぶ可能性のある企業関係者に、今回の運用明確化の内容を理解いただき、コンプライアンスの確保のために活用いただければ幸いである。
■ みなし輸出管理とは
みなし輸出管理とは、国際的な平和及び安全の維持のため、日本国内において「非居住者」に対して特定の機微技術を提供することを目的とする取引を管理する制度であり、外為法第25条第1項に基づき事前に経産省の許可が必要になる。
従来は、本邦人が原則「居住者」として扱われることはもとより、本邦内の事務所に勤務する外国人も「居住者」とされ、これら「居住者」間の技術提供はみなし輸出管理の管理対象外であった。したがって、企業内における技術提供は原則対象外とされていた。また研究者、留学生など、本邦に入国後6カ月以上経過した外国人も「居住者」とされていたため、大学等によるこれらの人への技術提供が、みなし輸出管理の対象外となる場合があった。
■ みなし輸出管理の明確化の内容
今般、限定的に解釈運用されてきた外為法第25条第1項について、わが国を取り巻く経済安全保障環境を踏まえて運用を明確化した。すなわち、「居住者」(国籍を問わない)への技術提供であっても、「非居住者」に技術提供を行うのと事実上同一と考えられる場合、換言すれば、「居住者」が「非居住者」の強い影響下にある場合には、みなし輸出管理の対象であることを明確にした。
「居住者」が「非居住者」と事実上同一と考えられるケースは、以下の3類型である(特定類型)。特定類型に該当する「居住者」である自然人に対して外為法で管理された機微技術を提供する場合、事前に経産省の許可が必要となる。
- 1類型外国政府や外国法人等との間で雇用契約等の契約を締結し、当該外国政府や外国法人等の指揮命令に服するまたはそれらに善管注意義務を負う者
- 2類型外国政府等から多額の金銭その他の重大な利益を得ているまたは得ることを約している者
- 3類型本邦における行動に関し外国政府等の指示または依頼を受ける者
■ 企業の対応における留意点
みなし輸出を含む安全保障貿易管理は従来、主として企業や大学の輸出管理部門が対応することが多い分野であったが、今般の運用の明確化に伴い、人事部門や法務部門などと協力して対応する必要性も生じ得る。輸出管理に造詣が深い企業においても、輸出管理部門と他部門とで適切に連携する必要がある。
本件に関し、経産省では各種説明資料・Q&A等を用意している。また、今回の運用明確化に関連し特定類型に該当するかどうかの判断が困難であるなどの場合に、相談に応じるための窓口を設けている。いずれも詳細は経産省の安全保障貿易管理のウェブサイトを参照されたい。