Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年1月1日 No.3527  内外経済・金融情勢の現状と展望 -経済財政委員会

経団連は11月30日、経済財政委員会(柄澤康喜委員長、永井浩二委員長)をオンラインで開催し、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストから、内外経済・金融情勢の現状と展望について説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ インフレ懸念と今後の経済見通し

2021年の重要な出来事として、まず資源価格等の高騰や物価上昇率の上振れを取り上げる。コロナ禍で人々は外食や旅行等のサービス消費から、巣ごもり需要である食料品や家電等のモノの消費にシフトした。こうした消費行動の変化で生まれた需要に企業の生産や労働供給が追い付かず、物価上昇率は上振れしている面がある。新型コロナウイルスが収束しても、消費行動は完全に元には戻らず、産業構造は変化するだろう。他方、感染リスクが落ち着けば、モノへの強い需要増が収まる一方、供給増加が進むため、物価の高騰は22年には次第に沈静化していくとみている。

主要国経済の回復ペースは鈍化しており、22年前半にかけて世界経済は減速すると考えている。欧米は、巨額の財政出動の反動に加え、物価上昇が続いており、当面はスタグフレーション的状況となろう。中国は、恒大集団問題で表面化した不動産市場の悪化等に伴い成長鈍化と資産デフレ的傾向にある。ただし、ワクチンが普及していなかった20年より状況は悪化しないため、各国とも大きな落ち込みとはならない見通しである。

■ 岸田政権の経済政策の課題

日本の潜在成長率は、労働生産性の低下や企業の設備投資の低迷によって、ここ10年間低下基調である。岸田政権最大の課題は、成長期待を高め、企業の設備投資を促し、生産性向上を通じて経済の潜在力を向上させることである。

しかし、岸田政権は分配を重視している。労働分配率のトレンドや所得格差を測るジニ係数を確認しても、所得格差が拡大している傾向はみられない(図表参照)。

経済政策の柱はパイの拡大を目指す成長戦略とすべきである。岸田政権の掲げる成長戦略のうち、デジタル田園都市国家構想や東京一極集中の是正には期待できる。人口が過度に東京へ集中しているため、東京の労働生産性の上昇は頭打ちである。一極集中が是正されると、地方のインフラや人材の活用等を通じて日本経済全体の生産性が向上する。それには中央省庁の地方移転など政策面からの後押しが必要である。

■ 日銀とFRBの出口戦略

23年4月の黒田東彦総裁の退任までは、日銀の政策は現状維持となる見込みである。日銀が掲げる2%の物価目標達成には3%台後半以上の潜在成長率が必要であり、現実的ではない。日銀は、コロナショック後、ETFの買い入れ減額や金融機関の収益支援を通じて、異例の金融緩和が破綻なく持続するように副作用を取り除く「事実上の正常化」を進めている。

米国では、22年からの利上げ開始が予想されている。しかし、今後の中国経済の減速や物価・住宅価格上昇の一巡を踏まえると、利上げは後ずれする可能性がある。政策金利を短期間で急激に引き上げる可能性は低く、足元の世界的な低金利環境が一変することはないとみている。

【経済政策本部】