1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2022年2月17日 No.3533
  5. 日本企業による投資関連協定の活用のポイント

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年2月17日 No.3533 日本企業による投資関連協定の活用のポイント

小原氏

経団連は1月26日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。長島・大野・常松法律事務所の小原淳見パートナー弁護士から、日本企業による投資関連協定の活用のポイントについて聴いた。小原氏は、国際商業会議所の国際仲裁裁判所副所長を務めるとともに、日本政府により投資紛争解決国際センター(ICSID)の仲裁人候補者に指名されている。概要は次のとおり。

■ 投資関連協定の重要性

対外直接投資は、世界情勢や投資国の国内政治により翻弄される傾向にある。例えば、気候変動対策として化石燃料事業の規制が強化される、電気自動車関連の資源の高騰を受け資源ナショナリズムが台頭する、経済安全保障確保の観点から外資が規制されるといった事例が存在する。外国投資家は、こうしたホスト国による当初予想していなかった大幅な制度変更から自らの投資を保護する必要があり、そのツールとして投資関連協定の重要性が高まっている。

投資関連協定は、日本政府と締約国との間で締結されるが、その多くが互いの国の投資家および投資財産を保護する義務について定めている。また、投資関連協定に紛争解決条項があれば、保護義務に違反して相手国政府が日本企業の投資を毀損した場合に、投資家は相手国政府と対等な立場で仲裁による紛争解決を開始することができる。実際、投資関連協定によって、投資財産の違法な国有化、許認可の不当な剝奪行為、制度変更や課税措置など投資財産の価値を大幅に毀損する行為、投資の優遇策の不履行・撤廃などから投資家が保護された事例は少なくない。特にICSIDによる仲裁は、国による介入を排除できるため中立性が高い。

投資協定仲裁は、日本企業も活用している。例えば、スペイン政府が、再生可能エネルギーの投資促進を図るべく導入したFIT制度を後に大幅に変更した案件については、複数の日本企業が勝訴している。

■ 投資を守るためのポイント

投資関連協定があれば必ず投資家が保護されるというわけではない。投資家には、ホスト国の法制度・運用を調査し、生じ得るリスクを勘案するなどデュー・ディリジェンスを尽くしたうえで投資判断を行うことが求められる。また、ホスト政府が制度の安定性を約束して投資を誘引したという事実を記録に残しておくことも保護を受けるうえで重要な要素である。

投資仲裁による紛争の解決にあたっては、最も有利な協定を選択することも重要である。ホスト国との間に複数の投資関連協定が締結されている場合、保護義務の記載が比較的シンプルな初期の協定の方が保護の対象範囲が広く解釈される傾向にあり、投資家にとって権利行使がしやすい。そのうえで、当該紛争が選択した協定のどの条項に違反するのか具体的に検討する必要がある。投資ビジネスを理解する仲裁人および仲裁廷の長を選定することも極めて重要である。最近の協定では仲裁申し立てに期限があるため、タイムラインを意識しながら、綿密に準備すべきである。

また、投資仲裁の傍ら、和解交渉を早めに開始することも選択肢である。ただし、和解交渉の場合、被った損害の補償を求める代わりに、ホスト国から新たなビジネスの機会を得るというかたちでの解決が多く、金銭賠償を目的としている場合には和解は容易ではない点に留意する必要がある。

【国際経済本部】

「2022年2月17日 No.3533」一覧はこちら