Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年2月24日 No.3534  大規模災害への備えとレジリエンス強化に向けた企業の役割 -社会基盤強化委員会

目黒氏

経団連は2月3日、社会基盤強化委員会(山内隆司委員長、渡邉健二委員長)をオンラインで開催した。東京大学の目黒公郎教授から、企業における大規模災害対策のあり方、社会のレジリエンス強化に向けた役割について説明を聴いた。概要は次のとおり。

近い将来に発生すると予測される首都直下地震や南海トラフ地震による被害は、東日本大震災とはスケールが全く異なる。がれきの発生量を例にすれば、首都直下地震では東日本大震災の約4倍、南海トラフ地震では約12倍と予測される。したがって、その対策には有限な時間とリソースの効率的な活用が不可欠であり、時間と空間(短期・中期・長期、対策のスケール)を軸にした3つの観点が重要になる。

1つ目は、科学的根拠に基づいた正確な知識の取得である。首都直下地震や南海トラフ地震による長期的な経済被害は甚大になると考えられるが、事前のインフラ強化やがれきの資源化などの政策により、この被害を6割程度軽減することが可能になる。

2つ目は、地域特性、自治体の能力、そして自分自身の能力を知ることである。対策の優先順位は、(1)自分の生命・安全(2)家族の生命・安全(3)仲間・地域の生命・安全(4)職場の対策――である。(4)の備えは、(1)から(3)が確保されて初めて機能する。

3つ目は、災害メカニズム(入力・システム・出力の関係=(1)入力「地震動など」(2)システム「自然環境と社会環境から成る地域特性」(3)出力「物理的・社会的現象、これが基準を超えると災害になる」)の理解に基づいて、災害状況を正しく想像する力「災害イマジネーション」である。これが重要な理由は、人間は想像できないことに対しての備えや対応が無理なためである。

今後、企業は防災対策をコストではなくバリューとしてとらえ、平時と有事を分けないフェーズフリーな視点で備えることが大切である。企業のBCP(事業継続計画)では手段の目的化が起こっていて、災害時の外部環境の変化にもかかわらず従前事業の継続を目的としている。国や自治体のリソースが限られていくなかで、今後、企業に求められる防災上の役割は一層大きくなるが、これがビジネスとして成立しなければ限界がある。平時業務にプラスの効果をもたらす対策が、そのまま災害時にも機能するという視点が重要である。またこの実現には、国や自治体が企業に対してインセンティブを与え、支援することが不可欠である。さらに最も重要なのは、人材と国土の有効活用を妨げ、被害が巨大化する最大の原因である、首都圏への極度な一極集中を緩和することである。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】