Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年3月10日 No.3536  中南米における政治情勢の変化と日本の中南米外交 -外務省の小林中南米局長と懇談

小林氏

経団連は2月16日、最近の中南米情勢に関する懇談会をオンラインで開催した。外務省中南米局の小林麻紀局長から、コロナ禍の中南米情勢と日本の中南米外交について説明を聴くとともに意見交換した。加瀬豊中南米地域委員長をはじめ参加者は、国際的な人の往来の緩和、日本メルコスールEPAの早期交渉開始等を求めた。説明の概要は次のとおり。

■ コロナ禍の中南米情勢

中南米の人口は、世界の8%にすぎないが、新型コロナウイルスの感染者数は世界の15%、死者数は28%に達している。また、2020年の経済成長率の下落幅は7%と、リーマンショック時(2%)を超える落ち込みとなるなど、新型コロナによる影響が深刻である。

中南米では、貧富の格差の是正が進んでいない。10年代半ばから資源価格の下落等による経済の減速から中間層の不満も高まった。18年から19年には一部の国で政権への大規模な抗議活動が発生した。そこにコロナ禍が重なり、構造的な社会問題が浮き彫りとなった。こうしたなか政権への不満が高進し、メキシコ、アルゼンチン、チリ等で左派勢力の台頭と左派政権の誕生が相次いだ。日本政府としては引き続き情勢を注視しつつ、これまで同様に中南米諸国との関係を構築していく。

■ メキシコ、ブラジルの動静

メキシコでは、18年に就任したロペス・オブラドール大統領が国民の高い支持を集めている。それは、「社会的公正」を重視し、外交よりも内政を優先課題としているためだ。しかし、その一環として、電力エネルギー産業において国家権限を強化する動きがある。日本の経済界も懸念していることから、政府としても引き続き、ビジネス環境整備委員会等を通じて日本の考え方をしっかりと伝えていきたい。

ブラジルでは、現在のボルソナーロ政権がBRICsを中心とする外交から、米国、日本等との関係を強化する外交へと方針を転換している。また、同政権は、OECD加盟審査も開始されるなか、このプロセスを通じてさまざまな社会経済改革を推進していこうとする強い決意を有している。日本政府としても、この機会をとらえて、日本企業が長年悩まされてきた「ブラジルコスト」(複雑な税制、手厚い労働者保護等のビジネス上の課題)を解消すべく、働きかけていく。22年10月の大統領選挙では、支持率でルーラ元大統領がボルソナーロ大統領を大きく引き離しているが、第3の候補を含め、まだ予断を許さない状況である。

■ わが国の対中南米外交の展望

日本にとって中南米は、鉱物資源や畜産飼料等の供給元であるだけでなく、民主主義や法の支配といった基本的な価値を共有する重要な地域である。また、再生可能エネルギーや水素に加えて、デジタル分野における協力も有望であり、経済安全保障の観点からも重視している。

中南米は歴史的に欧米との関係が深い地域であるが、近年、中国が急激に貿易を拡大し、政府間のハイレベルでの訪問など関係を深めている。また、韓国もメルコスールとの間で自由貿易協定(FTA)の交渉を進めている。このような状況も踏まえつつ、日本政府としては、日本経済の発展のため、経済界の声を聴きながら、中南米と日本の関係のさらなる強化に向けて、一層努力していく。

【国際協力本部】