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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年3月10日 No.3536 欧州におけるCEの最新情勢<下>
法制化目指すデジタルプロダクトパスポート
-21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(日本生産性本部エコ・マネジメント・センター長) 喜多川和典

EUが2020年3月に公表した第2次サーキュラーエコノミー行動計画では、デジタル技術により、製品、コンポーネントおよび材料の移動を追跡し、それらに関するデータに確実にアクセス可能とすることを求めている。これらに対応する基本データを総称して「デジタルプロダクトパスポート」(DPP)と呼ぶ。

DPPには、デュー・ディリジェンス、製造元、使用材料、リサイクル性、解体方法等の情報が含まれ、製品のライフサイクルに沿ったトレーサビリティを確保することを求めている。

DPPは現在、法制化が進められている。その目的は、持続可能な生産・製品管理・消費の促進、循環型新ビジネスのデジタル基盤を提供する一方、当局による法遵守の監視を効率化させて、サーキュラーエコノミーへ移行することである。

このようにDPPは、デジタルとCEを結ぶ重要な基礎データといえる。

また、優先的にDPPを適用する対象品目として、蓄電池、電子機器、ICT、繊維製品(衣類など)、家具などの完成品、および鉄鋼、セメント、化学薬品などの中間製品が考えられている。

しかしながら、DPPの普及には、製品の環境特性の明示を義務付ける法令だけでは不十分であり、CEおよび脱炭素を推進するインセンティブの導入も必要であろう。なぜなら、DPPの実施・運用には、それに関わる公的機関(開発、保守、監査等)と民間企業(データ登録、適合宣言、認証取得等)の両方に人的・経済的な負荷がかかり、経済活動の効率を低下させる可能性があるからだ。

また、登録データや使用履歴などの情報へのアクセスについて、閲覧資格のある者だけに限定するなど、情報セキュリティの確立も重要な課題である。

このような点から、DPPの有効性を疑問視する声が産業界から出ている。

DPPが、長寿命化や資源循環を促進する目的で導入されるのであれば、それを実現し得る他の方法に比べ、よりよいソリューションであるかを評価・検証すべきとの声もある。例えば、アパレル業界は、原料採取、労働条件等における問題の解決が重要であるとしつつも、DPPにかけるコストが経済性を悪化させる懸念があることから、登録する情報を必要最低限に絞るべきとの意見をEU当局に提出している。

一方で、このような課題の克服には、DPPの効率性や負荷を改善するだけでなく、企業がビジネスモデルを変革することもまた重要であるとの意見がある。つまり、ビジネスモデルを売り切りからシェア、サブスクリプションなどに転換することで、DPPが製品管理に有効なツールとして利用できる可能性が見いだせるといった指摘である。

DPPがまもなく適用される製品品目としては、電気自動車のリチウムイオン電池が挙げられる。現在、電池規則は法制化が進められており、同電池はそのもとで管理されることとなる。その際、自動車に使用された後、他の目的にリユース可能であれば、リサイクルよりも優先してリユースすることが法的に要求される見込みである。このような場合、電池の使用履歴は、リユースビジネスにとって有益な情報となる。またリユースは、資源消費、CO2排出量および製品の調達コストの削減に貢献する。

ドイツの「CEに向けたロードマップ」で提案された「CEレバー」の考え方を前回の記事で紹介したが、これは経済および脱炭素にかかわる効果を生み出すことで、上述したDPPにかかわる課題を克服する可能性を示しているとみることもできよう。

また、DPPの基準設定レベル(完成品または部品等)、データアクセスの許容設定等によっては、完成品メーカー、部品メーカー、サービス事業者、プラットフォーマー、リサイクラーの各産業セクターにとって有利・不利が分かれることとなる。このため、新しいビジネスモデルのイニシアティブを誰が取るかに影響を及ぼす可能性がある。

DPPにかかわる議論は、先述のとおり、欧州においても有効性を疑問視する向きがある。今後日本でも、循環型社会への移行とデジタル化の関係において、どのような製品管理の手法が経済・環境の両面において最も有効なのか、議論・検討を深めていく必要があろう。

【21世紀政策研究所】

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