Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年5月26日 No.3545  今後のわが国のアフリカ戦略のあり方 -TICAD8に向けて/サブサハラ地域委員会

平野氏

経団連は4月25日、サブサハラ地域委員会(大橋徹二委員長、加留部淳委員長)をオンラインで開催した。日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所の平野克己上席主任調査研究員から、今年8月にチュニジアで開催が予定されているTICAD8(第8回アフリカ開発会議)に向けて、アフリカの最新情勢や課題等について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ TICADは日本企業のアフリカビジネスを促進

1993年の立ち上げ以降、いわば外交フォーラムであったTICADは、2008年のTICAD Ⅳから、官民連携によるアフリカビジネス促進へとかじを切った。これを機に、JICA等日本の関係機関において、官民連携に向けたさまざまな組織改編や制度変更等が行われ、アフリカに対する日本企業の関心は高まった。M&Aを駆使するなど、日本企業の進出が増えたものの、その後は思ったように伸びず、昨今、日本の対アフリカ貿易投資は、むしろ徐々に後退している。その主な理由は、アフリカに進出できる企業はすでに進出を果たし、日本経済の実力が限界に達したためと思われる。

■ アフリカ市場の特性を理解することが重要

アフリカは小国の集団であり、各国の規模が小さく、国単位のマクロ情報にとらわれるのは適切でない。企業は本来、ミクロ経済のプレーヤーであることも踏まえると、国単位よりも、インドと同規模のGDPを有するアフリカ全体を一つの市場としてとらえる「ミクロの視点」が重要である。そのことがカントリーリスクの軽減にもつながる。

また、アフリカをみるうえで注目すべきは、少数の富裕層がアフリカの経済を支え、その他大多数の農村住民がアフリカの生活を支えていることである。ジニ係数が0.7を超えるほど、アフリカでは極端な不平等が蔓延している。しかし、このような不平等に耐え得る経済は、今後大きな成長可能性を秘めている。アフリカ経済全体を俯瞰する場合の視野としては、国家に限定する「マクロの視点」よりも、市場に立脚した「ミクロの視点」の方が大きく、アフリカでは国家を超える規模の企業が登場する可能性がある。私は、この点にアフリカの未来があると考えている。グローバル企業のアフリカ観も同様である。世界中のグローバル企業は、2.5%で増え続けているアフリカの人口をみながら、布石を打っている。今世紀後半以降の世界では、アフリカでだけ人口が増えていくのだ。

■ TICAD8への期待と日本企業が目指すべき方向性

TICAD8は、新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢など未曾有の国際情勢のもとで、以前のようなかたちで開催するのは難しいと思われる。しかし、開催国チュニジアからの期待も大きく、それに応えるため、アフリカ経済の未来を念頭に置いたコンセプトで進めるべきではないか。

日本では、アフリカにおけるビジネス環境上の問題、例えば、法制度やインフラの未整備や経済の不安定さ等が企業進出の大きな障害となっており、その解消が必要といわれてきた。しかしその議論が正しければ、日本以外の企業もアフリカに進出していないはずである。ところが実際は、欧米はじめインド、トルコ等の企業は熱心にアフリカビジネスを展開している。日本企業のアフリカビジネスの停滞は、アフリカの問題ではなく日本の問題なのである。

ミャンマーやロシアが示しているように、アフリカに限らず世界は元来リスクに満ちている。すでに日本の国際収支は、貿易ではなく投資によって支えられており、今後その傾向は強まっていくだろう。世界中の投資機会を見据えて、そこから利益を上げるポートフォリオの組み方が重要になっていく。アフリカビジネスへの対応は、日本人がそのようなスタンスをとれるかどうかの試金石である。

【国際協力本部】