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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年5月26日 No.3545 公衆衛生・予防医学を通して考えるわが国のデジタルヘルス戦略 -イノベーション委員会ヘルステック戦略検討会

経団連は4月19日、イノベーション委員会ヘルステック戦略検討会を開催した。国立国際医療研究センター国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センターの磯博康センター長から、公衆衛生・予防医学を通して考えるわが国のデジタルヘルス戦略について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 脳卒中の発症と保健指導の効果

かつてわが国は脳卒中の発症率が極めて高い国のひとつであった。その後、医療の進歩などによりその発症率は大きく低下した。しかし、今なお脳卒中が原因で年間11万人が亡くなっている。わが国の高齢者医療費において、脳卒中はがんに次いで2番目に大きな疾患でもある。公衆衛生・予防医学の点から残された課題も多い。

保健指導は、高血圧等のリスク因子を低減させ、最終的に、脳卒中の発症率を低減できることが明らかとなっている。高血圧や脳卒中の発症を抑制、あるいは、重症化する前に介入することで、結果的に医療費の抑制にもつながることが示されている。

未病から重症化予防まで、一人ひとりの状態に応じた保健指導に地域一体となって取り組む必要がある。具体的には、子どもを対象にした小学校での健康教育活動や、健診によるハイリスク者の把握と指導が挙げられる。そういった取り組みの運営に協力してくれる地域住民の存在も欠かせない。脳卒中の発症予防や医療費抑制には、10年単位の時間を要する。高血圧等の予防やリスク管理を根気よく続けることが求められる。

■ 公衆衛生・予防医学とデジタルヘルス

わが国ではライフステージに沿って健診を受ける機会が多く存在する。それぞれの健診データをつなぎ、保健指導も含めて生活習慣病を予防するシステムを構築すべきである。PHR (Personal Health Record)の推進も重要であり、そのための基盤としてライフコースデータのクラウド化も必要である。スマートフォンやウエアラブルデバイスといったデジタルデバイスは、専門家の保健指導を補助する有用なツールとなる。

公衆衛生・予防医学におけるデジタルデバイスの活用には、必要な要件がいくつか存在する。例えば、操作が簡便で日常生活と密着し、経済性や動機付けの点から持続可能性が備わっていることが求められる。また、年齢層・職種といったターゲットの設定や時間帯・季節といったタイミングの設定も、重要な要素である。

わが国は超高齢社会のフロントランナーである。その経験・科学的エビデンスを積極的に国際展開すべきである。わが国のデジタルヘルスに用いるICTやAIの基礎技術は、諸外国と比べても劣らない。一方、実装のための制度設計が課題となっている。現在、国を挙げて制度の構築が進められている。制度の構築と並行して、科学的エビデンスと経験や技術の融合を進めていくことが重要である。

【産業技術本部】

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