チェコ大使館は2021年に「チェコ科学・教育・イノベーション年」を掲げた。これはチェコの国家イノベーション戦略2019-2030の一環であり、政府が掲げる「未来のための国家」とも関連する。国家戦略の策定やイノベーションの重視は、研究開発への投資の増加や、特に研究・技術インフラの構築に表れている。インフラは世界水準であり、世界中の研究者がチェコにより魅力を感じてもらううえでも重要である。世界知的所有権機関(WIPO)のグローバル・イノベーション・インデックスも、チェコの水準の高さを証明している。チェコは同指標において131カ国中24位に入り、先駆的なイノベーター25カ国の一つとなった。
イノベーションの発展のカギとなるのは外国のパートナーとの提携・協力である。「チェコ科学・教育・イノベーション年」を昨年掲げたように、日本はチェコにとって最も重要なパートナーの一つである。その基盤となるのは大学間の提携協定で、両国の学生や研究者の交流を促進している。以前日本の大学で研究をしていたチェコ科学アカデミーの女性研究者シャールカ・ミクメコヴァー氏が21年に日本金属学会から賞を受賞したことも、このような学術交流の成果だろう。
既存の提携では、チェコ技術庁と新エネルギー・産業技術総合開発機構の国際研究開発事業が挙げられる。協力覚書に基づき、現在レーザー技術と半導体の応用研究プロジェクトが両国企業の参加で二つ行われている。現在のエネルギー危機に鑑みても将来性のある事業であり、水素技術の発展にもつながる。チェコは水素技術開発に貢献しており、科学技術イノベーション分野における日・欧州間の共同研究プログラムThe European Interest Group(EIG)CONCERT-Japanでは、チェコ人研究者が率いる国際水素研究プロジェクトが採択された。
今後期待される分野としては宇宙産業が挙げられる。昨年からチェコの首都プラハは欧州連合宇宙計画局の拠点として欧州の宇宙事業の中心となっている。現在国内では、伝統的な航空産業の流れをくむさまざまな分野の宇宙関連企業のエコシステムが急速に発展している。スタートアップを支援する宇宙インキュベーターのESA BIC Pragueもその一つである。これまで宇宙分野におけるチェコ・日本間の共同研究はあったが、より多くの企業を巻き込んだ研究開発が期待される時期にきている。
以上の例をみても、科学技術提携はより実用的なイノベーションへとつながり、両国の競争力を高めることになる。両国企業のオンラインマッチングイベントである「チェコ日イノベーション・デイズ」が開催されるとともに、東京開催の「イノベーションリーダーズサミット」にチェコのスタートアップが定期的に参加している。国内に270社以上の日系企業が進出するなど、チェコにとって日本は2番目に大きな投資国である。両国間の経済の結び付きは、技術的に厳しく、革新的な解決策が必要となる新たな分野の発展を促すうえで、理想的な土壌となっているといえる。
- V4+日本~長い歴史と未来の科学研究協力への大きな可能性(全5回)
- 〈1〉V4諸国の科学技術政策の概要
- 〈2〉ハンガリー~未来を牽引するバッテリー産業
- 〈3〉スロバキアと日本の科学技術協力
- 〈4〉チェコ~活発化する日本との科学技術提携
- 〈5〉ポーランド~日本の戦略的研究プロジェクトを支える研究者たち
- 〈2〉ハンガリー~未来を牽引するバッテリー産業