中国はウクライナ情勢に関して総じてロシア寄りの中立という姿勢を維持している。中国はロシアの侵攻を侵略とは呼ばず、対露制裁に加わることもない。さらにロシアとウクライナの間を仲介するような動きもみせていない。ただし戦争を積極的に支持するわけでもない。なぜ中国はこのような立場をとっているのだろうか。
第1に、中露関係の深化である。特に対米政策において中露の提携関係が深まってきていた。2022年2月4日の首脳会談後の共同声明は、「中露友好に限界はなく、協力に聖域はない」と宣言していた。この宣言は、一言でいえば中露の米国への対抗心をむき出しにしたものであった。この宣言のなかで中露は、(1)西側の進めるカラー革命(民主や人権といった普遍的価値を広めることで、体制転換を行うこと)の「陰謀」への反対(2)NATOやインド太平洋戦略など軍事同盟の圧力に対する反対(3)欧州の新たな安全保障枠組み構築というプーチン大統領の主張への中国の支持――という点で合意したのである。
中国が侵攻について事前にどの程度の情報を得ていたかはわからないが、共同宣言の内容からして、ロシアが何らかの行動に出ること自体は、それほど驚きだったと思われない。驚きだったのは、ロシア軍の大苦戦であろう。
第2に、今回のロシア―ウクライナ戦争に対する中国の態度のなかで、最も特徴的なのは、激しい米国批判を展開し続けていることである。中国は戦争の根本原因は米国にあり、米国がさまざまな手段を用いてロシアと中国に圧力をかけているとみて、これに反発している。例えば、人民日報は「ウクライナ危機から見る米覇権主義」と題する論評シリーズを発表した。これらは、戦争の最大の責任を米国の覇権主義に帰し、米国が意図的に危機をあおり、さらに戦争に手を貸すことで事態を悪化させたという陰謀論的な議論を展開していた。また中国は、米国がウクライナ国内に生物兵器実験施設をつくっていたとのディスインフォメーション活動(意図的な虚偽情報の流布)を展開している。
第3に、中国はロシアを非難しない自国の立場を、必ずしも国際的に孤立していると考えていない。実際にロシアの侵攻について国際社会が一致団結して「ノー」を突き付けている状況といえない部分もあり、中国はこれを利用して中立国を増やそうとしている。中国は新興国に対して平和的解決、制裁への反対などの立場をアピールしている。これは西側にもロシア側にもくみしたくない国々に向けて、できるだけ共通点を探り、中立国を増やそうとする努力であろう。こうした観点から、中国は、中東、南アジア、東南アジアに向けた外交を活発に展開してきた。
ただし中露提携には限界もある。中国はロシアをあからさまに支援することで、自国が前面に立つことは避けており、そのようなロシアの軍事・経済的支援要請には応えていない。少なくとも短期的には、中国はロシアに対する直接的・全面的な支援を目立つかたちで行う見込みは低い。
このように中国は、難しいバランスをうまく維持することで、自国の利益を追求している。そしてこのような立場は簡単に変わることはないだろう。中国は秋の党大会を控え、政治の季節に入っている。上海などでの新型コロナウイルスの感染拡大と厳しいロックダウンによって国内社会には不満も広がっている。こうした状況で対外政策を転換することは、習近平国家主席の誤りを認めることにもなりかねない。よって中国は現状の立場を変えないと思われる。
最後に、しばしばロシアのウクライナ戦争によって中国の台湾侵攻が誘発されるという観測が広がっていたが、戦争の展開はむしろ中国を慎重にさせるだろう。ロシアが情報戦において不利な立場に陥り、さらにウクライナの激しい抵抗の前に苦戦を強いられたことは、台湾侵攻の難しさを再認識させることになる。ただし中国が台湾の統一をあきらめることはあり得ず、むしろ今回の戦争の展開をみて中国はさらなる軍事力の近代化が必要と感じて、その強化に注力することになるかもしれない。
【21世紀政策研究所】