Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年6月23日 No.3549  中国共産党大会に向けて~行き詰まる習近平式統治 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(慶應義塾大学教授) 小嶋華津子

この秋に中国共産党第20回党大会を控え、習近平政権は内憂外患の危機に直面している。国内には習政権の新型コロナウイルス対応に対する不満が噴出し、外交面ではロシアのウクライナ侵攻以降、中露の同一視に基づく対中包囲網の形成が進む。

かかる内外情勢は、第20回党大会で異例の3期目を迎えるであろう習近平総書記に、さまざまな試練を突き付けている。

第1に、内外政策の失敗により党指導部内の習氏の権威が揺らげば、「党主席」なり「領袖」なりの称号を得ることはもとより、3期目の政権を安定的に運営することすら難しくなる。かつて集団指導体制を改め習氏に権限を集中させることに合意した指導者たちの間にも、国家主席の任期規定廃止(2018年3月)や個人崇拝的傾向に対しては異論があると伝えられており、習氏の権威は盤石ではない。

第2に、党の要職人事の采配が困難になる。習氏はこれまで、党の人事を差配する中央組織部のトップに清華大学時代の学友・陳希氏を配し、自身の腹心を党の要職に引き上げてきた。しかし、次期政治局常務委員や国務院総理の有力候補と目されてきた李強氏(上海市党委員会書記)は、上海での新型コロナ対策の失策により、昇格が危ぶまれている。また、浙江・上海時代の部下として習氏の信頼の厚い応勇氏(前湖北省党委員会書記)が、名誉職ともいえる全国人民代表大会憲法・法律委員会副主任委員に転任するなど、ここにきて、習氏の腹心が昇格を逃すケースが報じられている。中国政治のダイナミクスが人事に規定されていることに鑑みれば、これは習政権にとって一つの不安定要因となるだろう。

第3に、経済不振による人々の生活の悪化である。これまで中国共産党による一党独裁の正当性の源泉の一つは、生活向上への期待感であった。習氏が貧困撲滅の成果を強調し、「共同富裕」(共に豊かになる)のためのさらなる市場化を呼びかけてきたのも、こうした文脈に沿うものであり、人心掌握に一定程度寄与したといえる。しかし、コロナ禍およびゼロコロナ政策が経済に与えた影響は甚大である。現在、党のナンバー2である李克強総理の陣頭指揮のもと、国務院により経済政策が次々と策定されており、一部には、「李上習下」(李克強が残り習近平が降りる)という流言まで飛び交っている。しかし、経済政策はこれからが正念場であろう。とりわけ深刻なのが若者の失業問題である。すでに22年4月の時点で都市部の16~24歳の失業率は、過去最高水準の18.2%を記録した。さらにこの夏には、前年比約2割増の1000万人超が大学を卒業する。彼らに雇用と豊かな将来への期待を与えられるかどうかが、習政権の安定にとって何より重要だ。だが、見通しは決して明るくない。

第4に、旧態依然たる地方や末端の官僚機構である。中国という巨大な国を動かすには、地方、末端に至る官僚機構の効率的な営みが不可欠である。習政権は党の規律検査委員会や政法委員会による上から下への管理、統制により官僚機構に蔓延する汚職の一掃を図るとともに、下から上への報告を義務付け、官僚機構に対する統御を強めてきた。また、デジタル化を通じた行政の効率化と透明化を推進してきた。しかし、これらも道半ばである。

指導部内の権力闘争も、官僚主義との闘いも、民衆の生活難による社会不安への対応も、中国が毛沢東時代から歴史的に抱えてきた問題である。しかし、毛沢東時代と大きく異なるのは、今や大国となった中国の安定と発展が、日本や世界の安定と発展に直結するという点である。経済界、政界、学界を挙げて、中国の問題を内在的に理解するためのリテラシーを高めていかなければならない。

【21世紀政策研究所】

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