Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年7月28日 No.3554  常任幹事会で鈴木東京大学公共政策大学院教授が講演

鈴木氏

経団連は7月6日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催した。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授が「最新の国際情勢と我が国の対応」と題して講演した。概要は次のとおり。

■ ロシアによるウクライナ侵攻

最新の国際情勢を語るうえでは、当然ながら、ロシアによるウクライナ侵攻が中心的なトピックとなる。

国際社会の大方の予想に反して、なぜロシアは戦争を始めたのかという点について、NATO(北大西洋条約機構)の拡大への不安等が指摘されることが多い。しかし、実際には、米国のアフガニスタンからの撤退を踏まえ、ロシアは米国の介入の可能性が低いとみて侵攻に踏み切ったことが一番の理由と考えられる。

侵攻が始まってからすでに4カ月が経過しており、両国ともに戦力の消耗は激しく、継続できる能力は厳しい状況である。領土主権をめぐる戦争である以上、双方の指導者の継戦意思は強く、西側諸国がウクライナの支援を継続する限り、戦闘の長期化が予想される。

他方、ロシアが戦局の打開を図るために、核兵器を使用する可能性は低いと考えられる。その一因として、ロシアとNATO諸国の間に、国際政治学でいう「安定・不安定パラドックス」(注)という状況が生じていることが挙げられる。すなわち、核戦争になる可能性を避けたい米国をはじめとするNATO諸国が、ウクライナへの派兵を控えたことで、ロシアの通常兵器による軍事行動の余地を与えた。ロシアとしては、核兵器を使用すれば、NATO諸国の介入や核戦争を誘発してしまう可能性を恐れているともいえる。

こうしたなか、今回の対露制裁は、かつてイランや北朝鮮に行ったような、明確な目的のもとでの「抜け穴」のない厳格なものというよりも、西側諸国として制裁可能な項目を積み上げ、迅速な協調による対応に主眼を置いていると評価できる。

■ 中国からみたウクライナ侵攻

今回のウクライナ侵攻は、中国にとっても学びがあったと考えられる。それは、武力侵攻に対する諸外国の反発は大きく、それが住民の結束を促し、西側諸国の介入を正当化することで、迅速かつ広範な経済制裁につながり得るということである。中国は、ロシアが持つ石油、天然ガスなどの「切り札」を持たないことから、制裁が講じられた際の対応の難しさも、台湾における武力行使をとどまらせる要因の一つになり得ると考える。

■ 日本が得た教訓

今般のロシアによる「サハリン2」の事実上の国有化の動きも念頭に、日本としては、戦争の終結や将来的な体制の転換も見据えながら関与の仕方を判断していくことが重要である。

今回の戦争の一番の教訓は、「戦争は向こうからやってくる」ということであり、日本においても軍事安全保障への備えが必要であるということである。政治と経済はかつてないほど密接に関連しつつあることから、企業は国際情勢の動向を十分に注視しながら事業活動を進めていく必要がある。

(注)核保有国が、核兵器を保有しているという事実によって、相互に戦闘を抑止しているなかでは安定が生まれる一方、通常兵器による戦闘が生じやすくなり、不安定化するという考え

【総務本部】