経団連の通商政策委員会企画部会(神戸司郎部会長)は7月20日、東京・大手町の経団連会館で、今後の経済連携に関する懇談会を開催した。経済産業省通商政策局の福永佳史経済連携課長から、わが国の経済連携等の現状について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ EPA・FTAの現状
米EU等の先進国では、新たな経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)の締結が進んでいない一方、韓国や中国を含む新興国・途上国は、引き続きEPA・FTAの締結に積極的である。実際、韓国は、イスラエル、カンボジア、フィリピンとのFTAに署名または大筋合意したほか、中断されていたメキシコとのFTA交渉も再開した。現在、日本の発効・署名済みEPA・FTA等の貿易額に占める割合は80.4%に上る。日本企業が他国の企業に劣後しないようにすべきとの産業界の声を踏まえつつ、国別に状況を確認しながら対応の方向性を関係省庁と検討したい。
■ 日本のEPA・FTA、投資関連協定
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)について、現在、英国の新規加入に向けた交渉が進行中である。CPTPPは、市場アクセス、ルールの両面でレベルが高い。英国がこの高い水準を満たすことができるか、連日の交渉を通じて慎重に見極めている。中国、台湾、エクアドルも加入を申請したが、現状、交渉開始には至っていない。まずは、英国の新規加入を実現し、高水準な協定の拡大の実績をつくることが優先課題である。
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定は、ASEAN10カ国、日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランドの参加を得て、2022年1月に発効した。地理的に近い国を含むため、サプライチェーンの効果を最大化することに資する。また、発展段階が異なる国も参加するなか、さまざまなルールを規定している点で意義深い。発効後6カ月間の利用件数(注1)について、RCEPは、これまでのEPA・FTAと比較して最多となっている。
投資関連協定は、日本企業が海外に投資する際、相手国の不適切な介入等を未然に防ぎ、起きた問題を解決するために重要な役割を果たす。協定締結数が比較的少ない、アフリカならびに中南米諸国の協定締結を優先して進めたい。
■ エネルギー憲章条約近代化交渉
エネルギー憲章条約(ECT)は、旧ソ連圏諸国におけるエネルギー関連規律の確保を目的として、1998年に発効した。企業がエネルギー関連の投資をした際に、投資関連協定と同様、当該投資を保護することが可能となる。日本のほか、多くの欧州諸国が加盟している。
これについて、2020年7月以降、条約の近代化に向けた交渉が行われ、22年6月に実質合意に至った。合意内容のうち重要な点は、保護対象となるエネルギー経済活動の定義の変更である。環境問題への対応の必要性等を背景に、EUならびに英国への化石燃料関連の新規投資は、一部例外を除き、保護対象から除外される。既存投資については、改正ECT発効日から10年後に保護対象から除外される(注2)。また、CCS・CCUS(注3)に関する活動等が、保護対象となるエネルギー経済活動の定義に新たに追加されることとなった。22年11月のエネルギー憲章会議において、同改正案が採択に付される予定である。
(注1)原産地証明書発給件数より算出
(注2)23年8月16日以降に行われた投資を「新規投資」、
23年8月15日以前に行われた投資を「既存投資」と定義する
(注3)地下にCO2を貯留・活用する技術
【国際経済本部】