Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年9月1日 No.3557  第110回ILO総会の模様、責任あるサプライチェーンの構築に向けた企業の取り組み -労働法規委員会国際労働部会

経団連は7月28日、労働法規委員会国際労働部会(市村彰浩部会長)を開催した。厚生労働省大臣官房国際課国際労働・協力室長の西澤栄晃氏が第110回ILO(国際労働機関)総会について、また、ILO駐日事務所プログラムオフィサー渉外・労働基準専門官の田中竜介氏が、ILOと日本貿易振興機構(ジェトロ)・アジア経済研究所が2022年6月に公表した調査報告書「自動車部品産業 責任あるサプライチェーン~その取り組みの現状と課題」(※)について、それぞれ説明した。概要は次のとおり。

■ 第110回ILO総会の模様(西澤氏)

西澤氏

ILOは、毎年、187の加盟国の政労使の代表が集まる総会を開催している。第110回総会(22年5月27日~6月11日)で特に注目されたのが、ILOの「労働における基本的原則及び権利」((1)結社の自由および団体交渉権(2)強制労働(3)児童労働(4)雇用差別――の4分野、8基本条約)に、労働安全衛生を新たな分野として含める議論である。同総会では、第155号条約(「職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約」、日本は未批准)と第187号条約(「職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約」、同批准済み)を基本条約に追加した。155号条約は職業上の安全および健康や作業環境について加盟国が一貫した政策を策定するとともに、国や企業が講ずべき必要な措置等を定めたものである。厚労省としては今後、条約の規定と国内法制との関係や諸外国の状況を精査していく。

■ ILO自動車部品産業の調査報告書について(田中氏)

田中氏

グローバル企業には、進出先の国におけるILO基本条約の批准状況等を踏まえつつ、国際スタンダードに則った事業活動が求められる。このためILO駐日事務所とジェトロ・アジア経済研究所は、国際労働基準に合致したかたちでのビジネスの実践、サプライチェーン上の関係者によるオーナーシップの促進等、責任あるサプライチェーンの構築に資する取り組みの参考となるよう、タイの自動車部品産業における調査・好事例を収集した。調査項目と好事例の取り組みのポイントは次のとおりである。

  1. (1)日系企業本社のCSR方針のタイ現地子会社への浸透
    現地子会社において本社のCSR方針を推進するにあたり、労働安全衛生をその要に置いている。その際、方針やその実践方法を日本からの上意下達ではなく、現地子会社が主導して企画することで納得度を高めている。現地子会社での労使対話に基づく信頼関係の構築により、CSRの取り組みのさらなる拡大や持続可能性の向上につなげている。

  2. (2)日系企業本社のCSR方針の現地サプライヤーへの浸透
    既存の品質・価格・納期(QCD)の改善活動をサプライヤーとの信頼関係の構築につなげている。CSR活動をQCDの改善活動と一体的に行うことで、単独では進みにくいCSR推進活動へのインセンティブを与えている。

  3. (3)現地労働者との関係構築
    現地子会社の労使が現地に根差した方法で建設的な労使対話を重ね、信頼関係を構築するとともに、サプライヤーの労働組合にも取り組みの意義を伝播させることで、サプライチェーン全体での強固な労使関係の構築を図っている。

ILO駐日事務所は、ILO基本条約に労働安全衛生分野が追加されたことも踏まえ、日本のグローバル企業が、進出先の国における労働安全衛生等での好事例を、積極的に世界に発信していくことを期待している。

※ 「自動車部品産業 責任あるサプライチェーン~その取り組みの現状と課題」
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---asia/---ro-bangkok/---ilo-tokyo/documents/publication/
wcms_849049.pdf

【労働法制本部】