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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年9月22日 No.3560 新型コロナ対策と医療改革の課題、今後の展望 -小林慶應義塾大学教授から聴く/危機管理・社会基盤強化委員会

小林氏

経団連は9月2日、東京・大手町の経団連会館で危機管理・社会基盤強化委員会(永野毅委員長、相川善郎委員長、安川健司委員長、渡邉健二委員長)を開催した。小林慶一郎慶應義塾大学経済学部教授から、新型コロナウイルス対策と医療改革の課題、今後の展望について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。

■ 感染症対策と社会経済のトレードオフ

感染爆発期においては、医療逼迫・医療崩壊を防ぐことが主な目的になってしまう。しかし、感染症対策は、(1)経済社会活動の制限(2)一般医療の制限(3)新型コロナ医療の拡充――の三つをバランスさせることを念頭に置く必要がある。その基準は人命であると考えるが、わが国においては国民に行動制限が実施された結果、新型コロナが要因と思われる若年層の自殺者の発生や出生率の低下、学校閉鎖やオンライン授業の長期化がもたらす教育上の負荷など、さまざまな経済学上の損失が生じてしまった。実際に対策を講じる際には、追加的な措置に伴う社会経済全体への損失と利益とをバランスさせるよう、考慮しなければならない。

■ 新型コロナ対策の問題点

これまでの新型コロナ対策には、危機に際しての縦割り思考の弊害が強く表れている。医療政策に関しては、医療サービスの利用者である一般市民の視点や要望が反映されにくい。医療や公衆衛生分野の政策決定者が、自らの分野の外側にいる人々に対する想像力を欠いていたと思わざるを得ないケースがあった。

経済学者や経済界は、誰が感染しているかわからないという情報の不完全性が経済の低迷につながると考えるため、PCR検査の陰性結果が情報の不完全性を是正することで、経済を活性化させることができるととらえ、検査の対象拡大を訴えた。しかし、公衆衛生専門家は、感染者を効率的に発見し、治療することがPCR検査の目的であるとして、検査対象を感染している可能性が高い層に絞り込み、件数を抑制することを強く主張した。結果として、従来の公衆衛生の論理が優先され、PCR検査の抑制的な対応につながった。

検疫所の人員不足を理由に水際対策が遅れたことがあったが、なぜ他省庁や地方自治体、民間から人手を集めるという発想を持つことができないのか、疑問である。

■ 医療制度改革の論点

医療が逼迫すると経済活動にブレーキをかけることになりがちである。医療のキャパシティを拡充したうえで、感染症危機発生時に十分な対応ができるような医療制度を構築することが最大の経済政策である。現行の医療制度のもとでは、資源の分散や過剰受診などが存在し、危機時の対応余力の不足を招いている。また、必要なときに人員や病床等の資源を再配置できないという問題もある。医療分野の政策決定に関する司令塔を明確にし、医療資源の迅速かつ効率的な配置に一層取り組むとともに、必要なときには、ある程度の強制力をもって、医療機関間の連携や医療・介護関係者の業務分担を進められるようにしなければならない。

◇◇◇

講演後、転院調整における地域間連携や医師不足・医師の働き方改革などについて、活発に意見が交わされた。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】

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