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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年10月6日 No.3561 世界と日本の物価の行方 -渡辺東京大学大学院教授が講演/経済財政委員会

渡辺氏

経団連は9月6日、経済財政委員会(柄澤康喜委員長、鈴木伸弥委員長)をオンラインで開催した。東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授から、「世界と日本の物価の行方」をテーマに説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ グローバル・インフレの背景

世界的にインフレ率が高進している。欧米では消費者物価が前年同月比プラス10%前後まで上昇し、各国が対応に苦慮している。一因は2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギーや食料価格の上昇にもあるが、実は米国は21年4月ごろからインフレ率が上昇し始めた。

より大きな要因として、パンデミックの「後遺症」とも呼べる人々の行動変容がある。欧米では感染症対策の行動制限措置が解除され、経済活動は正常化に向かったが、パンデミックで非労働力化した人々のすべてが労働市場に戻ってきているわけではない。米国では約500万人が非労働力人口のままであり、特に高齢者や女性で顕著である。

消費行動も変容した。以前はサービス消費の割合が趨勢的に高まってきたが、パンデミックを機に財消費へのシフトが生じた。

こうした労働と消費の行動変容は一過性のものではなく、パンデミックが収束した後も継続する「後遺症」だと考えられる。経済活動の再開により需要が急拡大し、特にこれまでシェアが低下してきた財ヘの需要が高まるなかで、供給側の労働者の不足も深刻化した結果、インフレが加速しているのである。

■ 日本の二つの病

図表 品目別価格変化率の分布

日本は急性インフレと慢性デフレという二つの病に侵されているとみている(図表参照)。急性インフレは諸外国と同様のエネルギー価格の上昇である一方、慢性デフレはほとんどの品目の価格が上昇していない状況を指す。日本では、消費者が価格上昇に敏感に反応し、企業は客離れを恐れて価格を引き上げられない状況が長らく続いてきた。

ただ、幸か不幸か、足元の急性インフレによって慢性デフレ解消の兆しがみられるようになった。毎年、「5か国の家計を対象としたインフレ予想調査」(調査国=日・米・英・カナダ・ドイツ)を実施しているが、従来の調査では、1年後の物価について「ほとんど変わらないだろう」と答える人の割合が日本は約3割と突出していた。しかし、22年4月の調査では、その割合が1割を切っており、他の4カ国に近づいている。

他方、慢性デフレ解消に向けて、物価だけでなく、賃金も適度な水準で上昇することが望まれる。しかし、同調査では、1年後の収入について「変わらないだろう」や「どちらかと言えば悪くなっているだろう」と答える人の割合が他の4カ国よりも高い状況が続いている。慢性デフレ解消の最後のカギは、持続的な賃金の上昇にあるといえる。そのためのスキームが必要となろう。

【経済政策本部】

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