Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年10月13日 No.3562  才能児に対する教育と教育DXの推進 -教育・大学改革推進委員会企画部会

経団連は9月13日、教育・大学改革推進委員会企画部会(平松浩樹部会長)を開催した。愛媛大学教育学部の隅田学教授から、才能児(注)に対する教育の現状と課題について、また、情報通信総合研究所の平井聡一郎特別研究員から、教育デジタルトランスフォーメーション(教育DX)の推進に向けた課題について、それぞれ説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ 才能児に対する教育の現状と課題(隅田氏)

米国の公立学校では、約6%の児童生徒が才能児と認定され、彼らの才能を伸ばす教育が実践されている。一方、日本では、公教育において才能を伸ばす教育がなく、才能児も他の子どもたちと一緒に授業を受けている。「誰ひとり取り残さない教育」の重要性が指摘されるなか、「みんなが一緒に取り残されていないか」という課題認識を持っている。

日本政府は、第4期科学技術基本計画(2011~15年度)に「優れた素質を持つ児童生徒を発掘し、その才能を伸ばすための一貫した取組」を盛り込んで以降、科学技術振興機構を通じて、義務教育段階から科学技術分野に特異な才能を持つ子どもに対する学外教育プログラムの提供を推進している。

例えば、小中学生を対象とした「ジュニアドクター育成塾」では、大学、高専、NPOなど30機関において、長期間にわたって子どもたちと関わりながら、各機関の特徴を活かした特色のあるプログラムを実践している。プログラムによっては、受講生の学びを支えるために、学生や社会人などがメンターとして受講生に接するほか、社会教育施設や企業等との連携を進めているところもある。

愛媛大学教育学部では、独自の取り組みとして「Kids Academia」を実施している。具体的には、幼児~小学校低学年を対象とした体験型学習プログラム「キッズアカデミア・サイエンス講座」を開催し、高い関心や能力を持つ幼い子どもを集めて、その知的好奇心を科学的な探究へと深化させている。

今後、全国に点在する才能児を発掘し、その才能を伸ばすためには、才能児支援教育の拠点を少なくとも各都道府県に一つ設置する必要がある。また、義務教育段階からの公教育における才能児の支援や、才能児のニーズに対応できる教員の養成・研修等が必要である。さらに、特異な才能を社会変革へとつなげるために、社会が才能を正当に評価するとともに、経済界・学術界・教育界・芸術文化界との協働のもと、才能のある人材をプールすることが重要である。

■ 教育DXの推進に向けた課題(平井氏)

デジタル技術の進展等により社会は大きく変化し、問題発見力や的確な予測、革新性等の新たなスキルが社会人に求められている。そのため、学校は社会を生き抜くために必要なスキルの変化に対応しなければならない。

20年度から順次施行されてきた新学習指導要領は、個別最適な学びを通じて、今後必要とされる能力・資質の育成を目的としている。さらに、新学習指導要領の目指す個別最適な学びとICT活用リテラシーの習得の実現に向けて、GIGAスクール構想による1人1台のデバイス導入と通信環境の整備が実施された。

しかし、GIGAスクール構想によるハード面の整備だけでは不十分である。そこで今後、教育DXを進めるために、(1)教員の意識転換(2)学びの質の転換(3)学びの内容の転換――といったソフト面の改革が必要となる。まず、新学習指導要領のもと、小中高12年間の学びの継続性を確保するため、高校教員は、すべての教科がリンクする「総合的な探究の時間」と「情報Ⅰ」を教育の中心に据え、新しい学びに対応すべきであろう。また、授業に関しては、従来の教員主導による知識伝達型の学びから、学習者主体の探究型の学びへと変えていくことが重要である。さらに、探究型学習を通じた主体的・対話的で深い学びを実現するためには、日常的なICT機器活用が欠かせない。

国が先陣を切って改革を進めていくことで、学びの変革に取り組む自治体が増えてきた。学びを変えていくことで、学校を、そして、学校で学ぶ子どもたちの未来を変えていくことができる。

(注)知的、創造的、芸術的分野、リーダーシップ適性、あるいは特定の学問分野で高い能力を示す子ども

【SDGs本部】