Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年1月1日 No.3573  グリーンバイオの動向と産業界への期待 -バイオエコノミー委員会企画部会

経団連は12月1日、バイオエコノミー委員会企画部会(藤原尚也部会長)を東京・大手町の経団連会館で開催した。東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授でバイオインダストリー協会会長の阿部啓子氏から、農業・食料分野における産業界の現状と課題、今後の期待について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 農業・食品に関連する地球規模の課題とSDGsの状況

20世紀後半に人口が爆発的に増え始め、「人新世」といわれるように、人類の活動が地球環境などに重大な影響を与えている。コロナ禍でSDGs達成に向けた進捗が遅れており、日本の国際的地位も年々低下している(2017年11位から22年は19位)(注)。このような状況において、国連はSDGsに関する課題を解決する主体として、企業に期待している。

しかし、ロシアとウクライナの戦争に起因する輸入難も背景に、世界で食料危機が生じており、日本も無縁ではない。わが国の農林水産業は、耕地面積や就農人数、林業従事者が大幅に減少するなど、非常に大きな課題を抱えている。食料自給率も、飼料等に関する自給率が非常に低いこともあって、実質的にシンガポールと同じ10%程度であるとする意見もあるなど、極めて危機的な状況にある。

■ 農業・食料に関する日米欧の施策

欧米では、EUが20年にFarm to Forkという戦略を、また米国農務省が同年に農業イノベーションアジェンダをそれぞれ発表するなど、「国連食料システムサミット」と連動した取り組みが積極的に行われている。

日本では、政府の「食料・農業・農村基本計画」(20年改定)のもと、30年の目標として、食料自給率45%ならびに農林水産物・食品の輸出額5兆円の達成を掲げている。一方、農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」(21年5月)では、50年のCO2排出量ゼロや食品製造業の労働生産性向上を掲げている。同計画と同戦略との関係性がわかりにくいとの指摘もある。

■ フードテックに関する各国の動向と新たな研究会の立ち上げ

オランダのワーゲニンゲンには、フードバレーと呼ばれる地域が存在し、世界的バイオ関連企業の研究所がある。フードバレーの強みは、国際機関の分室がそろって設けられており、最先端の動向をいち早く把握できる点にある。

イスラエルでは、代替タンパク質関連で、官民で積極的な取り組みが行われている。昆虫食への抵抗が少ない韓国では、フードテックの興隆を政府が後押ししている。シンガポールは、世界に先駆けてルール形成での主導権獲得を目指している。中国は、国民を絶対に飢えさせないという考えのもと、代替タンパク質に関するフードテックの推進に向けて、資金提供などによる支援が盛んである。各国とも危機感を背景に国民の理解度が高い。

日本でも、バイオエコノミーにおける農業・食品分野の市場拡大に向けて、「Food Bio Plus研究会」を立ち上げた。同研究会を通じて、フードテックを活かした食料システムにおける社会課題の解決と、グローバルを意識した産業の発展を支援する予定である。食品企業だけでなく異業種やスタートアップ、ベンチャーキャピタルとも協力していきたい。

(注)ベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューションネットワーク「Sustainable Development Report」での「SDGsの達成状況」における世界ランク

【産業技術本部】