1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2023年1月19日 No.3575
  5. ASEANの政治経済情勢の展望

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年1月19日 No.3575 ASEANの政治経済情勢の展望 -アジア・大洋州地域委員会ASEAN経済連携強化部会

相澤氏

経団連は12月14日、アジア・大洋州地域委員会ASEAN経済連携強化部会(田中秀幸部会長)をオンラインで開催した。九州大学比較社会文化研究院の相澤伸広准教授から、ASEANの政治経済情勢の展望について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ ASEANが直面する三つの不確実性

ASEANの政治経済情勢は、三つの点で不確実性が高まっている。第1に、米中競争に起因する不確実性である。米国、中国ともにASEANに対するコミットは確実とはいえない。例えば、2022年に、米国のバイデン大統領はインドネシアが議長国を務めたG20バリ・サミットに参加した一方で、タイが議長国を務めたAPECには参加していない。中国については、「一帯一路」の展開にかつての勢いはない。ASEANからみて、中国と米国は、いずれも頼ることができない存在である。

第2は、経済成長に関する不確実性である。ASEANは老いる前に豊かになり、「中所得国の罠」を抜け出すことを目標にしてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大により経済成長が停滞している。また、ASEAN経済は米中間の競争によって安全保障の一部に組み込まれるようになっており、ASEANが経済運営の主導権を握る余地は減少している。短期的には中国から製造業が移転してくることによる恩恵を受けているが、長期的にみると、海外直接投資の拡大を得て、「中所得国の罠」から抜け出す戦略には悪影響を及ぼしている。これにより、経済社会に関する政策の運営に焦りが生じ、政策決定も中央集権化が進んでいる。

第3は、デジタル化が経済社会にもたらす不確実性である。デジタル化によって、政府による国民統制の強化および市民による政府の公正性・透明性確保という相反する効果が期待される。どのような過程で各国社会に新たなガバナンス手法が浸透していくのか不透明であり、その政治過程で公正性が確保されない状況になれば、経済社会に対する不満が醸成され、反エリート運動、反国家運動につながりかねない。

■ ASEANにとって望ましい第3の秩序の構築に向けて

これらの不確実性を踏まえ、ASEANでは、「望ましい秩序」は中国中心型でも米中二極構造でもない第3の秩序であると考えられている。また、「望ましい社会」が何かという問いに対し、「豊かで安全な社会」までは合意はあるが、「自由な社会」が望ましいという合意はない。ASEANが今後、「豊かで安全な社会」と「豊かで安全で自由な社会」のいずれの社会を希求し、その社会に資する地域秩序を求めていくのか注視している。

こうしたなか、ASEANでは、三つの「ハイブリッド化」が進行している。第1に、米中双方、さらには日本、欧州、韓国、インド等との関係を内部化する安全保障戦略である。第2は、国際経済秩序が流動化する環境下で生き抜くため、ビジネス界を積極的に政策決定に取り入れる国家機構における政財界のハイブリッド化の進行である。第3は、ASEAN内における世代交代の文脈で、新旧エリートが衝突することを避けるために、新興エリートと旧エリートの間で生まれるハイブリッド化である。

他方で今後、これらのハイブリッド化の結果、一般市民の声が政府に届かなくなり、急進主義、地方分離、民族主義が進展する可能性がある。したがって各国、そして地域全体の政治的安定のため、日本としてはとりわけ中間層の下の層の「夢」の実現にも意を払う必要があるだろう。

【国際協力本部】

「2023年1月19日 No.3575」一覧はこちら