Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年1月26日 No.3576  高年齢雇用の経済分析 -雇用政策委員会人事・労務部会

奥平氏

経団連は12月23日、雇用政策委員会人事・労務部会(直木敬陽部会長)をオンラインで開催した。同志社大学大学院の奥平寛子准教授から、「高年齢雇用の経済分析」と題して説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 高年齢労働者の増加が企業に与える影響

これまでの数次にわたる高年齢者雇用安定法の改正への対応として、定年年齢の引き上げや定年制の廃止、継続雇用制度が各企業で取り入れられ、高年齢労働者が増加している。このことに関連して、若年労働者との代替が進んだ、あるいは中年労働者や女性パート労働者との置き換えが観察されたとする先行研究が公表されている。しかし、これらの研究は、因果関係の解釈に課題があり、エビデンスが確立されているとは言い切れない。

そこで、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を用いて、高年齢労働者の増加が新卒採用者数や労働時間等にどのような影響を与えたかを分析した。その際、業績や経営戦略等の影響を排除し、高年齢労働者を増やさざるを得ない状況下での因果関係を把握するため、継続雇用の義務年齢を段階的に引き上げて適用することとしていた2008年から11年までのデータを利用した。

その結果、高年齢労働者の増加は新卒採用者数の減少にはつながっていないことがわかった。むしろ、高専卒や短大卒、女性の高校卒の新規採用者数が微増したことに加え、40歳未満の労働者で所定内労働時間が微減したことが確認された。

■ 海外における最新の研究

労働者が自由に転職できない場合や企業が柔軟に昇進の機会を確保できない場合、高年齢労働者が企業に残留することで若年者の昇進機会やキャリアに影響を与えてしまう「キャリア・スピルオーバー」が実際に存在するのかを、11年のイタリアの年金改革時(実質的な退職年齢の引き上げ)のデータを用いて推定した研究結果を紹介する。

分析の結果、退職年齢の上昇が若い世代の賃金伸び率を抑制すること、高年齢労働者が高い役職についている場合に若年者の昇進率を下げることが確認された。一方、成長をしている企業(従業員数の伸び率が高い企業)では、キャリア・スピルオーバーは確認されなかった。このことは、キャリア・スピルオーバーの負の影響以上に企業が成長する必要があることを示唆している。

■ 環境変化を踏まえた企業の留意点

高年齢労働者がますます増加していくにあたり、いかに企業の成長を継続させていくかが重要となる。さまざまな年代の労働者との共存を前提とした人事戦略が練られてきたなか、企業は若年者の昇進や昇給、活躍の機会を一層確保する必要がある。少なくとも、高年齢労働者の存在が若年者の活躍を妨げる印象を与えないよう、若年者とのコミュニケーションの拡充は必須といえる。加えて、若年層を対象としたリーダーシップ研修の実施や年功賃金の廃止など、自社の実情に応じた取り組みを検討することが望まれる。

【労働政策本部】