経団連(十倉雅和会長)は1月23日、東京・大手町の経団連会館で日本労働組合総連合会(連合、芳野友子会長)との懇談会を開催した。両会長をはじめ、経団連側は副会長、審議員会副議長、地方団体長会副議長、労働関係委員長ら14人、連合側は会長代行、副会長ら15人が参加。春季労使交渉をめぐる諸課題について意見交換した。
開会あいさつで十倉会長は、わが国経済の持続的な成長のためには、現在のコストプッシュ型のインフレをデマンドプル型に移行させ、賃金と物価が適切に上昇する「賃金と物価の好循環」を実現する必要性を強調。2023年の春季労使交渉を「デフレからの脱却と人への投資促進による構造的な賃金引き上げを目指した企業行動へと転換するうえで、正念場かつ絶好の機会」と位置付けた。さらにさまざまな考慮要素のうち物価動向を特に重視しながら、企業の社会的な責務として、賃金引き上げのモメンタムの維持・強化に向けた積極的な対応をできるだけ多くの機会をとらえて呼びかけていると述べた。
一方、連合の芳野会長は、物価上昇に加え、わが国で長く続いているデフレマインドが物価高の影響を増幅させる一因であると指摘し、「このような情勢認識は労使間のみならず国民全体で一致している」と述べた。そのうえで、23年の労使交渉を「労使が力を合わせて日本の未来をつくり変えるターニングポイントとすべき」と訴えるとともに、賃金引き上げを基本とした経済の好循環の再構築が重要であると強調した。
両会長のあいさつに続いて、連合側が「2023連合白書」、経団連側が「2023年版経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)を説明した後、懇談した。
物価上昇を上回る可処分所得の増加と中小企業における適切な価格転嫁の必要性に関する連合側からの意見に対し、経団連側からは、「パートナーシップ構築宣言」の参加企業の拡大と実効性を高める取り組みを強化し、サプライチェーン全体でコストアップを分かち合う必要があるとの発言があった。
また、経団連側の「生産性向上のため、リカレント教育等による働き手の能力開発に取り組み、社内外の円滑な労働移動を促進していくことが重要」との意見に関して、連合側から、「労働移動は労働者の意思が尊重されるべきであり、能力開発は企業の責任において実施することが基本」との考えが示された。このほか、連合側からは「社会保障・教育・税の一体改革」「男女間賃金格差の是正や子育て支援の充実」「パート・有期雇用労働者の処遇改善」などについて発言があった。一方、経団連側からは「医療・介護等のソーシャルベーシックサービスの拡充」「個の主体性を尊重した働き方や人事評価制度の整備」「地方の中小企業における構造的な人手不足への対応」などの意見が出された。
閉会あいさつで連合の芳野会長は、「労使で思いはほぼ一致している」としたうえで、「企業の発展・魅力ある職場づくりには建設的な労使関係が重要である。この難局を乗り越えていくためにも、労使の真摯な協議を期待したい」と結んだ。
十倉会長は、「賃金引き上げとともに、社会保障制度改革や働き方改革を進め、社会・労働のダイナミズムを取り戻す必要がある」との考えを示した。また、連合が「闘争」との文言を使用していることに関連して、「連合と経団連が社会の壁や閉塞感を打破するために『共闘』するという意味ならば歓迎する。未来社会を『協創』する精神をもって取り組んでいきたい」と締めくくった。
【労働政策本部】