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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年3月2日 No.3581 ギンコ・バイオワークスの事業概要と日本のバイオ産業への示唆 -バイオエコノミー委員会

ケリー氏

経団連は2月8日、東京・大手町の経団連会館でバイオエコノミー委員会(小坂達朗委員長)を開催した。バイオベンチャーとして世界をリードするGinkgo Bioworks(ギンコ・バイオワークス)のジェイソン・ケリーCEOから、同社の事業概要、バイオ産業に関する米国政府の方針などについて説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ バイオ産業に関する米政府の方針

2022年9月12日、米国ホワイトハウスはヘルスケアや気候変動、エネルギー、農業、国家・経済安全保障等の領域において革新的なソリューションを生みだすために、バイオテクノロジーとバイオ製造業に関する政策を推進していくとの大統領令を公表した(注1)。現在、バイデン大統領の指示のもと政府一体で、全米科学財団と連携して、合成生物学やバイオエコノミーを推進している。

■ ギンコ・バイオワークスの事業概要

ギンコ・バイオワークスは08年にボストンで創業した、細胞・ゲノムの研究開発領域で変革を起こす企業である。21年に上場した際には16億ドルを調達しており、カリフォルニアやオーストラリア、フランス、オランダ、スウェーデンなどを研究拠点として、世界最大規模のゲノム開発事業を展開している。

具体的にはAIを用いて、ファウンドリー(注2)の自動化を手がけている。研究室ではAIや機械学習を用いて600万種類もの酵素をデザインし、スクリーンテストを行っている。また、CRISPR(クリスパー)という機械学習を用いた編集テクノロジーで、標的となるDNAを採取し、低コストで解析している。

当社のビジネスモデルは、アマゾンウェブサービス社のクラウドコンピューティングサービスのそれと似ており、合成生物学を応用した製品をさまざまな業界のユーザーに提供している。22年、製造業用の化合物を改善させる酵素を開発するため、ライフサイエンス研究、バイオ・医薬品製造などの分野で活躍するMERCK社と、1億4400万ドルでパートナーシップを結んでいる。

当社のファウンドリーが保有するデータプラットフォームでは、細胞治療や遺伝子治療、微細分子・微生物を用いた治療向けの医薬品開発にあたり、プログラミングやアプリ開発ができるサービスを提供している。また、農業分野では他社と提携して、植物由来の人工肉や乳製品の製造・開発を展開しており、温室効果ガスの削減に寄与する窒素系の肥料もバクテリアを用いて開発している。

■ 日本のバイオ産業への示唆

大学からバイオ産業で活躍するスタートアップを生みだすには、自治体や政府による資金調達プログラムを利活用することが重要である。08年の創業時はベンチャーファンドからなかなか資金を得られなかった。ボストン市の支援や中小企業向けのリサーチファンド制度であるSBIR(Small Business Innovation Research)等を活用し、14年にようやくY Combinator社に参加してもらえるようになった。

21年4月の日米首脳会談で、AI、量子、バイオテクノロジー等の領域で日米が連携する声明が発出された(注3)。日本のバイオ戦略をはじめ、日米のバイオ産業に関する政府方針はよく似ている。特に両国が力を入れているデータの積極的な活用について、政府はゲノムデータのプラットフォーム構築に一層投資する必要がある。また、データを公開・利用することにも、一定の範囲で政府が関与すべきである。今後も技術に関する情報の共有を含め、両国の官民がバイオ分野で積極的に連携を図るべきである。

(注1)大統領令(「Executive Order on Advancing Biotechnology and Biomanufacturing Innovation for a Sustainable, Safe, and Secure American Bioeconomy」)
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/presidential-actions/2022/09/12/executive-order-on-advancing-biotechnology-and-biomanufacturing-innovation-for-a-sustainable-safe-and-secure-american-bioeconomy/

(注2)合成生物学等の技術開発に必要な装置群を集積させ、オートメーション化した技術パッケージ

(注3)日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」(21年4月16日)
https://www.mofa.go.jp/files/100181507.pdf

【産業技術本部】

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