1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2023年3月30日 No.3585
  5. 大規模震災に対する災害復興と事前復興

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年3月30日 No.3585 大規模震災に対する災害復興と事前復興 -中林東京都立大学・首都大学東京名誉教授から聴く/危機管理・社会基盤強化委員会企画部会

中林氏

経団連は3月1日、東京・大手町の経団連会館で危機管理・社会基盤強化委員会企画部会(工藤成生部会長)を開催した。中林一樹東京都立大学・首都大学東京名誉教授から、大規模震災に対する災害復興と事前復興について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。

■ 東日本大震災にみる「災害復興」

東日本大震災の発生後、行政は被災地の「復興」を行政計画における公共事業の進捗度で評価している。しかし、それだけが復興であろうか。災害復興には、公共事業による被災地復興と一人ひとりが取り組む被災者復興があり、本来重要なのは、被災者復興が進んだかどうかである。そこで、津波被災者に主観的な自己評価による復興の達成度を「復興感」として、アンケート(注)を10年間継続した。その結果、被災者の復興にとって重要な取り組みは、(1)食や家族の生活の安定など「日常生活の迅速な回復」(2)生活の糧である「仕事や世帯収入の迅速な確保」(3)「住宅再建の着実な見通しの確保・実現」(4)その時に住宅を建てる場として「市街地の復興」と「コミュニティーの再生」――の4点であることが確認された。つまり、災害復興には、日常生活ならびに自らの仕事となる産業を迅速に回復させたうえで、住宅再建の見通しを着実に図るという、「復興マネジメント」が何よりも重要なのである。

■ 災害復興と事前復興

(1)原地復興と移転復興

被災地復興には、被災した市街地を復興する「原地復興」と、被災市街地をより安全な地域に移転する「移転復興」がある。関東大震災や阪神・淡路大震災は「原地復興」だったが、東日本大震災では高台への移転や大規模な嵩上げによる「移転復興」が被災地復興となった。移転復興は大規模公共事業となり長期化するために、その間に被災地外に避難した住民をいかに呼び戻すかが課題となる。そのためにも、被災者復興と被災地復興の総合マネジメントが重要になる。特に南海トラフ地震の沿岸自治体は、あらかじめハザードマップを基に、どこに何を移転し、どのように被災者復興を誘導するのかを考えておく「事前復興」に取り組む必要がある。

(2)「準備する事前復興」と「実践しておく事前復興」

事前復興は、被災後の迅速な復興を図るため、目指すべき復興ビジョンや方針の検討と、計画策定や進め方の手順を事前に準備しておく取り組みである。これらの災害を座して待つ「準備する事前復興」のみならず、地籍調査の実施、大被害が想定される施設・建物の更新、津波危険地域の高台への事前移転など、「実践しておく事前復興」が重要になっている。さらに災害が発生する前に地域の問題を解決し、復興に際して目指すべき望ましいトレンドをつくり出しておくことも「実践しておく事前復興」である。

大企業を中心に事業継続計画(BCP)の策定が進んでいる。しかし、これは現事業の継続を計画するもので、「復旧」ではあっても「復興」ではない。もし被災を機に新たな展開を進めるのであれば、BCPの先に、「事前復興」として経営再編や立地展開を含む企業刷新に向けたビジョンを検討しておくべきである。

■ 人口減少時代の国土強靱化と事前復興

復興とは、防災の「課題解決型」ではなく、「目標達成型」へと発想を転換する取り組みである。目の前のリスクをどう減らすかという課題解決にのみ追われるのではなく、目指すべきビジョンを描き、そこへ向かって不断の取り組みを進めておく「事前復興」の実践を期待する。

(注)津波で大きな被害を受けた福島県新地町、宮城県気仙沼市、岩手県大船渡市の被災者約1万世帯を対象に、2012年から「復興感」について調査したもの

【ソーシャル・コミュニケーション本部】

「2023年3月30日 No.3585」一覧はこちら