1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2023年5月25日 No.3591
  5. 僅差の連邦議会において試される両党内の結束力

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年5月25日 No.3591 僅差の連邦議会において試される両党内の結束力 -ワシントンレポート

2023年の第118連邦議会は、マッカーシー下院議長選出劇という大混乱で幕を開けた。4日間、15回に及んだ投票は、南北戦争直前の1859年以来最多であった。下院における共和党の議席は過半数(218)+4のところ、当初は20人の共和党議員がマッカーシー氏を支持しなかった。そのため、下院議長不信任決議の発議に必要な議員数の1人への引き下げ、開かれた法案修正プロセスなど、反対派議員の要求をのみ、何とか216票(棄権6票)を獲得して議長に選出された。彼らをトランプ支持者あるいはマッカーシー氏を個人的に嫌っている者たちと評するメディアも散見されたが、トランプ前大統領も造反組の説得に失敗していることからもわかるように、ことはそれほど単純ではない。

実は、トランプ支持者も保守強硬派のフリーダム・コーカスメンバーも、マッカーシー支持では割れていた。問題は共和党議員のイデオロギーの違いではなく、マッカーシー支持に回った議員の一部も望んでいた党内改革の実現のために、どこまで強硬手段に出るかの違いであったと考えられる。造反組は、密室談義では要求が受け入れられないと考え、最も衆目を集めるイベントである議長選挙において、あえて党内対立をさらけ出した。彼らの覚悟は、今後の債務上限引き上げや予算問題でも頭をもたげる可能性がある。

波乱の幕開けにもかかわらず、その後の下院共和党は比較的、結束を維持している。下院中国特別委員会の設置、初等中等教育に関する「親の権利法」、化石資源開発奨励等に関する「エネルギーコスト削減法」など、選挙公約に掲げていた主要な法案を通すことに成功した。民主党が多数を握る上院の反対により、法案として成立する可能性は低いが、共和党の優先事項をかたちとして示したといえる。

しかし、その下院共和党の結束も債務上限引き上げ問題によって試される。上下院とバイデン政権が引き上げに合意しなければ、米国の債務不履行という前代未聞の事態に陥る。民主党は無条件の引き上げを主張してきた。一方共和党は、財政支出削減を通す交渉機会ととらえ、4月26日に下院で、財政支出を2022年度レベルに戻すことなどを条件に債務上限を引き上げる法案を予想に反して僅差で可決した。ボールを打ち返されたかたちのバイデン政権も交渉に応じる必要性が高まり、マッカーシー議長が保守強硬派を満足させる交渉結果を勝ち取れるか注目される。

これまで下院共和党内の対立に注目が集まってきたが、上院民主党も51-49という僅差のため、苦労をしている。一部議員の病欠が続き、委員会で過半数に届かない事態となっていた。また、22年12月にはシネマ上院議員が民主党を離党して無所属となり、マンチン上院議員もインフレ抑制法の履行をめぐってバイデン政権を公然と激しく批判している。

そのため、シューマー民主党院内総務は、下院におけるマッカーシー議長同様に難しいかじ取りを求められている。24年の改選議席は民主党にとって不利な州が多く、共和党支持州や接戦州選出の民主党議員は、党からの独立性をアピールする必要がある。3月1日、企業年金投資先にESG(環境・社会・ガバナンス)考慮を認めた労働省規則に対する無効決議において、テスター上院議員とマンチン議員が賛成に回り、バイデン大統領が就任後初の拒否権を発動する事態となった。さらに3月29日には、環境省の水質汚染対策規制の権限拡大に対する無効決議において、共和党全議員とともに、過剰な環境規制への反発が強いモンタナ州、ネバダ州、ウェストバージニア州選出の4人の民主党議員とシネマ議員が賛成に回り、成立させた。

議会発足後4カ月が経過したが、下院ではスタートのつまずきはあったものの、予想以上の実績をあげている。上院は、わずか2議席差の多数派である民主党のアジェンダ推進の難しさが目立っている。次の選挙まで1年半もあるなかでも、接戦州の各議員はすでに一つひとつの議決投票が自らの再選に及ぼす影響を考慮する必要が生じている。その代表例が、前述の民主党議員4人の水質汚染規制決議における投票行動である。

下院は共和党、上院は民主党という「ねじれ議会」では、法案が両院とも通過することが難しいため、膠着状態となるのが通説であるが、何も起こらないというわけではない。特に現在のような僅差の「ねじれ議会」では、上下院それぞれにおいて自党主流派のアジェンダよりも、自身の選挙区民や州民の利益を優先させる議員の影響力が大きくなる。連邦議員の投票行動は、その時々の政治環境を示すバロメーターであり、今後の米国政治の方向性を読み取る手がかりともなる。その意味でも「造反行動」は注目に値する。

【米国事務所】

「2023年5月25日 No.3591」一覧はこちら