経団連は6月1日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会企画部会(田中朗子部会長)を開催した。経済産業省産業技術環境局の福本拓也総務課長からイノベーション循環に向けた政策の方向性について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ イノベーション循環の推進に向けた検討
6月2日、経産省産業構造審議会の研究開発・イノベーション小委員会は報告書「イノベーション循環を推進する政策の方向性」を公表する。「イノベーション循環」とは、イノベーションの実現による市場創造・対価獲得の成果が、さらなる研究開発投資や経営資源の獲得・強化等の投資に向かい、それを支えるさまざまな主体の機能や活動が質量ともに高まっていくことである。研究開発段階にとどまらず、事業化・市場創造を実現してキャッシュ獲得に至るプロセス全体をイノベーションととらえている。
検討においては、「イノベーションの担い手は誰か」「イノベーション・プロセスの課題は何か」「ミッションを実現するためのイノベーション促進策はどうあるべきか」という三つの論点を議論した。
■ イノベーションの担い手~ディープテック・スタートアップ
一つ目の「イノベーションの担い手」については、主な担い手としてスタートアップと知的資本を生み出す人材を特定した。特に研究開発を社会課題の解決につなぐディープテック・スタートアップへの期待は大きい。
ここ5年間で国内のディープテック・スタートアップの数やベンチャーキャピタル(VC)等のファンドの規模は増加しているが、米国と比していまだ大きな差がある。特に大きな課題は、成功例が少ないことである。このことが長期・高リスクの開発費などの資金調達を行うための投資家の評価手法が確立していない、人材獲得が難しいといった課題にもつながっている。また、ディープテック・スタートアップの成功にとっては、大企業等の事業会社との連携がとりわけ重要である。M&A含めEXITの多様化を進めることが必要である。
■ イノベーションの担い手~知的資本を生み出す人材
人材については、経営人材や研究人材等、幅広く議論した。そのなかで興味深い事実として、卓越した研究業績を有する「スターサイエンティスト」が企業と連携すると、研究と事業の両方の業績が向上するとの研究がある。他方、日本ではスターサイエンティストの数が減少傾向にあり、博士人材の活用も十分でない。大学や企業、スタートアップ、政府など多様な人材が活躍の場を求め、円滑に移動できる環境を整備する必要がある。
■ イノベーション・プロセスとミッション志向型イノベーション政策
同報告書では、イノベーションの担い手を支える施策だけでなく、研究開発や事業化等の段階ごとに焦点を当てたイノベーション・プロセスに関する施策や、国家レベルの重大な課題を解決するミッション志向型イノベーションに関する施策も盛り込んでいる。
特にイノベーション・プロセスの初期段階では、早く、軽い失敗と挑戦が重要であり、それを促進する政策を示した。また、事業成長段階では、企業の経営資源や政策資源も含め集中して市場獲得に取り組むこととしている。さらに、(1)標準化戦略や知財戦略を研究開発段階から組み込むこと(2)グリーントランスフォーメーション(GX)や資源循環、経済安保等、世界的に進んでいる「ミッション志向型イノベーション政策」のあり方――も提案している。
今後、こうした検討をさらに深め、わが国のイノベーション循環を推進していきたい。
経産省産業構造審議会 産業技術環境分科会 研究開発・イノベーション小委員会 中間とりまとめ
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/20230602_report.html
【産業技術本部】