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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年8月10日 No.3602 LGBTQ+をめぐる課題から考えるDE&I推進の価値と意義 -ダイバーシティ推進委員会

河野氏

経団連は7月11日、東京・大手町の経団連会館でダイバーシティ推進委員会(魚谷雅彦委員長、柄澤康喜委員長、次原悦子委員長)を開催した。「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)の施行を踏まえ、筑波大学人間系の河野禎之助教から、「LGBTQ+をめぐる課題から考えるDE&I推進の価値と意義」をテーマに説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。

■ LGBTQ+をめぐる世界と日本の状況

LGBTQ+をめぐっては、世界にはさまざまな立場の国が存在する。同性間の関係を犯罪とみなす国がある一方で、欧米を含む多くの先進諸国では環境整備が進んでおり、LGBTQ+に対する差別の禁止や婚姻の平等が実現している。世界と歩調をあわせることがDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)推進の目的ではないが、特にビジネスセクターにおいては、国際的に通用する人材がどのような国を選ぶかというリスクマネジメントの視点も必要になっている。日本でLGBTQ+を含む人権にかかわる課題が改善されない状態が続けば、国内から人材が流出し、国外から人が集まらないという事態も十分に起こり得るだろう。

日本の教育においては、2015年に文部科学省が「性同一性障害に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」を通知し、服装、髪型、更衣室などで環境整備が進められた。大学でもLGBTQ+に関する基本理念やガイドラインが整備され始めている。つまり、義務教育から高等教育まで一貫して配慮を受け、インクルーシブな環境で育つ子どもやユース世代がどんどん増えているのである。環境の質の連続性という観点からは、学生の行き先としての企業においても、より具体的な取り組みが求められる。また、ビジネスセクターには圧倒的多数の人々が属しており、そうしたセクターによるメッセージの発信は社会的影響力が非常に大きく、取り組みの「実」を左右する。

■ LGBTQ+をめぐる課題の背後にある構造的問題

LGBTQ+当事者は周囲から見えにくい。そのため「いない」とされがちである。しかし、国内の調査からはおよそ3~8%は存在していることが示唆されている。これは左利きやAB型の人の割合と変わらない数であり、日常にいるはずの状況といえる。したがって、当事者が「いない(=見えない)」状況を周囲の環境が生み出しているのかもしれないと考えることが重要である。ただ、もっと大切なことは、数の問題ではない。数が多いから取り組まないといけないのではなく、存在が「0」ではないことを認識し、それを前提として対応していくべきである。

また、日本の社会には、性的指向だけではなく、性別、国籍、障がいの有無など、さまざまなマジョリティー性、マイノリティー性が存在している。社会のインフラやサービスはマジョリティーを基準につくられているため、マジョリティーであることを自覚する機会は少ない。他方、マイノリティーは、自身を前提につくられていない社会を前に、常に障壁に直面している。このマジョリティーを基準、規範としたマイノリティーとの間にある構造的な問題が、LGBTQ+に関しても潜んでいる。LGBT理解増進法がさまざまな議論があったなかでも可決・施行された背景には、個人レベルでの「差別」の範疇を超えた構造的な問題がそこにあり、「法律」や「制度」で根幹から変えていく必要があったからだ。

もちろん、制度・法律レベルのみならず、チームレベル、個人レベルなど、さまざまな段階で行動できることがあり、重層的にDE&Iの推進に向け、行動することが重要である。単に多様な人を集めるだけではなく、それらの人々を包摂し、心理的安全性を高め、個々人が「公正」に生きられる社会を実現させていくことに、DE&I推進の価値と意義がある。

◇◇◇

説明後、LGBTQ+当事者と企業とのコミュニケーションのあり方や、企業のLGBTQ+に対する取り組みの検証方法などについて、活発に意見が交わされた。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】

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