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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年8月31日 No.3603 国際租税研究会 活動報告~経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対応 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹 青山慶二

2012年6月に経済協力開発機構(OECD)において国際課税ルール全体を見直すBEPS(Base Erosion and Profit Shifting=税源浸食と利益移転)プロジェクトが発足した。15年には最終報告書が公表されたが、経済のデジタル化に伴う課税上の課題については積み残しとなっていた。例えば、事業所等のPE(恒久的施設)を持たずに他国におけるビジネスを展開するケースが増加するなか、PEを課税根拠とする国際的な課税ルールの再検討が迫られていた。また、法人税率の引き下げをめぐる各国の「底辺への競争」も引き続き課題となっていた。

それらの解決策として、OECDを中心とする包摂的枠組みにおいて「第1の柱」「第2の柱」という二つの方策が議論されている。21世紀政策研究所(十倉雅和会長)の国際租税プロジェクトでは、研究会の開催などを通じて、経団連の税制委員会とも連携しつつ、わが国経済界の立場から意見を発出している。

■ 第1の柱

第1の柱とは、これまでの国際課税の原則を見直し、多国籍企業に対する課税権をPEの有無を問わず、そのビジネスを実施している市場国に配分するものである。具体的には、一定以上の売上および利益率のある多国籍企業(世界で100社程度)グループの残余利益の一部を定式的に市場国に配分する(利益A)。このほか、国際的なバリューチェーンにおける基礎的マーケティング・販売活動について、移転価格税制の適用の簡素化・合理化(利益B)も検討している。

利益Aについては、23年末までの多国間協定(MLC)の署名式に向け、23年後半の早い段階で合意に至ることが期待されている。利益Bについても、OECDにおける検討が継続しており、公開市中協議なども実施されている。

■ 第2の柱

第2の柱とは、軽課税国への利益移転に対抗するため、多国籍企業グループへの15%の最低税率を定めるものである。GloBE(Global Anti-Base Erosion)ルールと呼ばれ、OECDでの議論を踏まえ各国で法制化が進んでいる。具体的には、ある法域における子会社の租税負担割合が最低税率に満たない場合、最低税率を満たすように最終親会社所在地国において上乗せ課税を行う。

日本では令和5年度税制改正において同制度が導入され、24年4月に施行される。なお、第2の柱には複数の要素があり、年末の令和6年度税制改正では、日本国内における最低税率制度の導入が議論される見通しである。

■ 国際租税研究会の活動と今後の課題

「第1の柱」「第2の柱」は過去に類例のない画期的な取り組みである一方で、対象となる企業にシステムの構築等を含め、コンプライアンスに関する負担を多大に生じさせるものである。そのため、制度の簡素化や実務の予見可能性の確保が不可欠である。国家間あるいは納税者と税務当局間の紛争の予防・解決が重要であることは言うまでもない。

21世紀政策研究所国際租税プロジェクトでは、企業委員と関連省庁との対話を通じて、国際交渉におけるわが国経済界の要望事項をインプットしている。また、OECDにおける合意事項を国内法制化する際の留意事項や、外国子会社合算税制など関連する他の国際課税制度についても、建設的な提案を行っている。こうした活動においては、研究者の委員から理論面でのサポートを、税理士法人等の委員から実務的な観点からの助言を得ており、日本で唯一無二の国際課税に関する議論の場となっている。

さらに、OECDや経団連税制委員会、Business at OECD(BIAC)と共同で、国際課税に関する会議を毎年開催している。この会議にはOECD租税政策・税務行政センター局長はじめOECDの担当幹部が毎回参加しており、日本企業の実務担当者の意見を直接伝えることのできる貴重な機会になっている。

今後も、内外の政策決定過程における日本企業のプレゼンス向上とともに、持続可能な国際課税制度の構築に貢献していく。

【21世紀政策研究所】

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