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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年10月5日 No.3607 分極化のなかのバイデン政権~難しいかじ取り -21世紀政策研究所 解説シリーズ/バイデン政権「前半戦」の分析と今後の展望<2>
/21世紀政策研究所研究副主幹(上智大学教授・総合グローバル学部長) 前嶋和弘

2020年の大統領選勝利でスタートしたバイデン政権は22年11月の中間選挙を経て「後半戦」に入った。本解説シリーズでは、21世紀政策研究所(十倉雅和会長)米国研究プロジェクトメンバーが、バイデン政権の「前半戦」における主要政策の動向やアメリカ民主主義の現状に関する分析に加え、来たる24年大統領選の展望について8回にわたり連載する。

前嶋研究副主幹

バイデン政権が発足してから10月20日で2年9カ月となる。

バイデン政権の「前半戦」を象徴するのが、過去10年間米国政治に巣くってきた政治的分極化(political polarization)だろう。政権のこれまでの動向と野党共和党側の動きもこの対立状態が規定してきた。

民主、共和両党の対立が激しくなっても、どちらかの政党が優勢なら法案成立から政策運営までスムーズに流れていくはずである。しかし、ここ数年は、イデオロギー的に大きく分断するだけでなく、ちょうど左右の力で大きく2層に対照的に分かれた均衡状態に至っている。

バイデン政権はこの拮抗状態のなかにある。

それでもバイデン政権の最初の2年間は歴史的な僅差ながら、民主党が上下両院で多数派を占め、大統領も民主党という「統一政府(unified government)」だった。僅差であっても多数派であることを優位に使い、「新型コロナウイルス対策」「インフラ投資」「子育て・教育支援」「気候変動」という大統領選での四つの公約のすべてをそれなりに実現させた。

しかし、2022年の中間選挙の結果、下院では共和党側が多数派を奪還し、上下院の「ねじれ」が生じ、「分割政府(divided government)」となった。政治的分極化で民主党と共和党の立ち位置が離れるとともに勢力も拮抗しているため、議会内での党派を超える妥協が難しい。そのため、分割政府になると、議会での審議がいつも止まってしまう。

次の議会選挙までの2年間、議会は常に膠着する。実際、23年に入り、バイデン政権が推進していきたい所得再分配や気候変動関連などの政策は完全に止まっている。分極化のなかの僅差が続くなか、そもそも立法化された法案の数も大きく減っている。

第118議会の場合も議会開始日の1月3日に、それまで少数派党だった共和党院内総務のケビン・マッカーシー氏が下院議長に問題なく選出されるはずだったが、共和党内で最も保守的な態度を貫いている自由議連の一部が反対し、自由議連が信奉するトランプ氏が個人的に各議員を説得するまで事態は好転しなかった。4日間、計15回も下院議長選挙が繰り返されたのは163年ぶりだった。

自由議連は下院議長選を通じて、マッカーシー氏に直言できるような立場になってしまっている。自由議連は、国際協調よりもまずは「アメリカ第一主義」で、排外的である。そして多様性に強く反対し、リベラル派を強く批判する。ウクライナ追加支援に対する影響も今後目立ってくるだろう。

自由議連の躍進もあって共和党が多数派を奪還した下院では、民主党との「攻守交替」の局面が目立っている。下院共和党側はすでにバイデン大統領の弾劾の準備を進めてきた。バイデン大統領の息子のハンター氏がウクライナや中国で行ったビジネスをめぐる大統領の利益相反や、「非合法移民を多数入国させた」という移民問題、さらには拙速な21年夏のアフガニスタン撤退など、弾劾の理由がすでに具体的に議論されている。

前大統領のトランプ氏が22年11月15日にフライング気味で再出馬を表明したため、なし崩しのように24年の大統領選に既に突入した。民主党でもバイデン大統領は再出馬を表明した。両候補ともに現時点では党内で敵なしという状況である。そうなると24年は20年と同じ「バイデン氏対トランプ氏」の戦いとなる。

ただ、バイデン氏の年齢問題やトランプ氏に対する刑事訴追という大きな不安定要素がある。さらに「バイデン」「トランプ」という言葉は、対立党内の怒りを引き出すため、味方だけでなく敵の結束も固める象徴ともなる。分極化の時代を象徴するような感情的な対立構造が前面に出るのが24年の大統領選になるのかもしれない。

※ 論考全文はウェブサイトを参照
時事解説「バイデン政権『前半戦』の分析と今後の展望」<第2回>
http://www.21ppi.org/theme/usa/index.html

【21世紀政策研究所】

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