複雑化する国際情勢のなかで、わが国は、自由貿易の維持、経済安全保障の確保、グローバルな脱炭素化の推進という相互に連関する三つの課題にバランスの取れたかたちで対応することが求められている。基本的価値を共有し、似通った課題を抱える日本と欧州が連携を一層強化していくことが重要との問題意識のもと、10月15~20日に、経団連の十倉雅和会長、安永竜夫副会長、東原敏昭副会長・ヨーロッパ地域委員長、髙島誠ヨーロッパ地域委員長、清水章同委員会企画部会長、久保田政一副会長・事務総長がベルギー・ブリュッセルおよびドイツ・ベルリンを訪問し、欧州委員会、ドイツ政府、欧州産業界等と懇談した。経団連会長ミッションがブリュッセルを訪れるのは約10年ぶり。
■ ブリュッセル
EUの政策の根幹は、ルールに基づく自由貿易の推進であり、2023年6月にEUとして初めて公表した「経済安全保障戦略」は、開放性を前提に、リスク回避のため、(1)EU自身の競争力の強化(2)貿易手段を活用した防衛(3)パートナーとの連携――を進めていく方針である。特に、重要鉱物については、中国依存からの脱却が不可欠であり、供給源の多様化を図ることとしている。脱炭素化・エネルギー政策では、30年までに再生可能エネルギーの比率を45%に向上させるとの目標を掲げ、風力発電や太陽光発電を一層普及させる。水素やアンモニア、メタノールといった新たなエネルギー源について、日本側は、多様な生産方法を追求すべきとの主張に対し、EU側は、化石燃料の延命につながるととらえられるような活用を排除し、再エネ由来のみを公的に支援していく方針であり、アプローチに相違がある。
■ ドイツ
日本と同様、貿易立国であるドイツは、保護主義に反対し、引き続き自由貿易を擁護していくメッセージを明確に表明した。デカップリングは実現不可能として、EUが標榜するデリスキングを進め、自律性を高めていく方針である。特に、重要原材料については、安定供給のため貿易相手の多角化を図っている。また、グリーン政策についても現実的な対応を追求している。EUの35年までの全新車の電気自動車化の提案について、合成燃料のみで走る内燃機関車の販売を是認するようEUに働きかけるなど、脱炭素化に資する技術についてあらゆる選択肢を残しておくべきと主張している。
【国際経済本部】