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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年12月14日 No.3617 博士人材の活躍および大学院教育改革に向けた取り組み状況 -教育・大学改革推進委員会企画部会

経団連は11月8日、東京・大手町の経団連会館で教育・大学改革推進委員会企画部会(平松浩樹部会長)を開催した。内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の白井俊参事官から、博士人材の活躍に向けた政府の取り組み状況と今後の課題について、文部科学省高等教育局高等教育企画課の小幡泰弘課長から、大学院教育改革の取り組み状況について、また日立製作所と中外製薬から、博士人財の採用・活躍に関する自社の事例について、それぞれ説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ 博士人材の活躍に向けた政府の取り組み状況と今後の課題(白井氏)

白井氏

日本では、経済的な側面やキャリアパスへの不安等の理由から、優秀な学生が博士課程への進学を断念している。博士課程進学者の減少は、わが国の競争力を中長期的に削いでいる。

政府は「第6期科学技術・イノベーション基本計画」を策定し、大学院教育改革を通じてSociety 5.0を支える博士人材を輩出することや、博士人材のキャリアパスの拡大に取り組んでいる。例えば、さまざまな事業を通じて、博士課程学生への経済的支援の拡充や多様なキャリアパスの整備を進めているところである。

また、総合科学技術・イノベーション会議では、有識者議員懇談会において、博士人材の多様なキャリアパスに関する議論を開始した。博士人材のキャリアに関する全体像を整理したうえで、効果的な施策を検討していく予定である。

優秀な人材が博士課程に進んで専門性を磨き、アカデミアや産業界を含めた社会のさまざまなセクターで活躍する好循環の創出が必要である。産業界との協働のもと、時代の変化を踏まえながら、新しい視点を持って議論していきたい。

■ 大学院教育改革の取り組み状況(小幡氏)

小幡氏

日本は、人口100万人当たりの博士号取得者数が米・独・英・韓と比べて3~4割程度にすぎず、企業の研究者に占める博士号取得者の割合も主要国と比べて低い。

そこで文科省は、産学官の参画を得つつ専門分野の枠を超えた博士前期・後期一貫した学位プログラムの構築を通じ、広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーを育成するために、「博士課程教育リーディングプログラム」を2011~19年度に展開してきた。同プログラムの修了生の就職率は96%と、博士課程修了者全体(68%)に比べて大幅に高く、修了生が起業する事例もみられた。18年度から開始した「卓越大学院プログラム」では、海外トップ大学や民間企業等との組織的な連携により、世界最高水準の教育・研究を結集した5年一貫博士課程学位プログラム構築の支援を通じて、さまざまなセクターを牽引する卓越した博士人材を育成している。

さらに、博士課程学生の多様なキャリアパスの実現に向けて、長期かつ有給で、正規の教育課程として単位認定される「ジョブ型研究インターンシップ」を推進している。関心のある企業は参加してほしい。

今後、学生のニーズを踏まえつつ、産業界と協働して、博士人材の育成に向けた取り組みを一層強化していきたい。

■ 日立製作所の事例

当社では、社会課題解決に貢献できる博士人財の採用を強化している。博士人財には、課題設定力、自身の技術で課題を解く能力、学会での実績から成る「高度な専門性」を重視している。21年から、ジョブ型研究インターンシップを実施しており、23年から受け入れ規模を拡大している。学生の資質能力・専門性とジョブとの整合性を長期で見極められることや、インターンシップ中の研究内容を会社と学生双方の成果にできること等に利点がある。

また、当社は、入学金・授業料の補助や研究支援等を通じて、従業員の博士号取得を後押ししている。特に研究開発部門では、部長相当職以上に就くうえで、博士号取得を必須としている。この結果、研究開発部門では勉学や向学の気風が養われ、研究者の約3割が博士号を取得している。

■ 中外製薬の事例

当社は、博士人財の採用にあたって、専門性に加えて、周囲に影響を与え協働する能力などのコンピテンシー面も重視している。22年度からは、ジョブ型研究インターンシップを実施している。

入社後の博士人財には、(1)研究職で高度専門職(プロフェッショナル職)(2)研究でのマネジメント職からの経営幹部登用(3)研究職以外へのキャリアチェンジ――といった複数のキャリアパスを整備している。

当社では、従業員の博士号取得を促進するために、「留学・資格取得休職制度」のほか、業務と関連する研究テーマを論文とすること等を前提に会社が全額負担する「博士後期課程早期修了プログラム」への支援制度を設けている。

博士人財の活躍に向けた課題として、(1)さらなる認知・発信による活躍領域の拡大(2)学びのプロセスの発信・共有による自律的な学びの文化醸成(3)日本における活躍度向上のための社内・業界を超えたネットワークづくり――が挙げられる。

【SDGs本部】

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