経団連は10月9日、東京・大手町の経団連会館で経済情勢懇談会を開催した。モルガン・スタンレーMUFG証券の和田木哲哉マネージングディレクターから、「半導体業界の現状と今後の展望」と題し、世界の半導体市場の潮流と、日本の半導体業界の現状と先行きについて説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 世界の半導体業界
半導体業界は、2030年1兆ドルの市場規模に向かって急拡大している。物価高に伴う消費減退により落ち込むとみられていた23年の半導体製造装置市場も、(1)中国の駆け込み需要(2)AI関連需要の盛り上がり――という二つの要因により、過去最高レベルとなった。
(1)について、米国の輸出規制が強まるとの見方から、中国は23年下期から多数の半導体製造装置を購入し、これが世界の需要を支えた。しかし、規制の強化により、今後はその支えがなくなると想定する。
(2)について、これまで中心的であったスマホ・PC関連の半導体需要は、消費減退もあり芳しくない一方、AI関連は好調で、注文が積み上がっている。オープン(Open)AIと組んだマイクロソフト、グーグル、アマゾン、オラクル、メタ等が大規模な投資を計画しており、AI関連の需要は今後も好調であろう。これらの企業による設備投資が過剰ではないかという声もあるが、EBITDA(利払い前、税引き前、減価償却前利益)や売上高に対する設備投資比率は安定的に推移しており、過剰ではない。また、キャッシュフローが改善していることからも、設備投資を抑えるという選択肢はない。
■ 半導体とハイテク業界
AI用グラフィックス・プロセシング・ユニット(GPU=画像処理装置)の原価率は低く、粗利益率が高いため、多少コストが高くとも、光電融合技術などの新技術を導入する余裕がある。光電融合技術は、日本電信電話がIOWN構想(注)のなかで研究開発を進めているものだが、近頃では台湾積体電路製造(TSMC)もかなり力を入れている。
■ 日本の半導体業界
日本は、製造装置や材料分野ではトップレベルであるとの話があるが、23年の製造装置における日本のシェアは、米国、欧州に続く3位に転落した。また、成長領域の製造装置には必ずしも食い込めていない。国内に先端半導体メーカーやベルギーのIMECのような技術開発機関がないことが支障となっている。
今後はラピダスに期待したい。イノベーションが起こる分野や産業波及効果が広い分野に政府が投資するのが望ましく、ラピダスはそれに当てはまる良い投資案件である。「政府が産業界に口を出してもうまくいかない」「税金を使うのはおかしい」――との批判もあるが、これ以上有用な税金の使い道はないと考えている。
TSMCの日本進出は順調である。計四つの工場を建設する予定で、30社ほどのサプライヤーを台湾から連れてくると表明している。半導体業界の好景気は確定している。なお、半導体関連の輸出は、中国による駆け込み需要の反動と、米中対立のあおりを受け、25年にかけて落ち込む。ただし、中国の代わりに欧米に半導体工場が建てられることになるため、将来的には落ち込んだ以上に大きく回復するとみている。
半導体周りの景気は、足元で悪くなっているが、AIを原動力とした中長期的なポテンシャルは不変である。まだまだ日本にチャンスはある。企業はアンテナを高くし、ポジティブな目線で頑張ってほしい。
(注)同社が30年ごろの実用化に向けて推進している次世代コミュニケーション基盤の構想
【経済政策本部】